技術
真っ直ぐ、目の前の彼女を見る。
なだらかで、きれいな両の頬。
ほどなく、流行り病が爪痕を残すはずの。
小さなこの村に、満足な医療があるはずもない。
それは必然――かつて感染した生存者を除いては――病に免疫がないことを意味する。
何も手を打たないのであれば、神頼みでロシアンルーレットを行うに等しいだろう。
――そしてそれは、この僕にも言えることだ。
致死率40%、累計死者1億人。
そんな天然痘が滅んだのは、ひとえにWHOの推進した予防接種のおかげだ。
発生患者の隔離&治療と、周囲への予防接種。
気の遠くなるほど地道なこの繰り返しが人の免疫を産み続け、このウイルスを唯一根絶に導いた。
けれども、それはおよそ半世紀は後のこと。
抗生物質も抗菌剤もまだ、地上のどこにも存在していない。
肺結核にしろインフルエンザにしろ、この時代、感染症の脅威はまだまだ“現役”だ。
僕のいた時代は、とうに病がひとつ滅んだ後だった。
滅んで久しい病に、日常的な注意を払うのはむずかしい。
詮無いことながら、廃止された予防接種をうらめしく思う。
なんてことはない。
どうにかできないか考えるだけで、自分の身に降りかかる可能性を忘れていた訳だ。
これをお人好しと呼んでは、お人好しでも怒りかねない。