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分相応
もちろん、セルゲイ氏の言わんとすることは分かる。
“決して贅沢ではない中での、創意工夫”。
分かる範囲の褒め言葉、ということだろうか。
悪い気はしないけど、特別に嬉しい訳でもない。
少しだけ複雑な気分を隠し、僕は言う。
「――ありがとうございます」
「紅茶にもよく合いますな。もう一枚、いいですか」
「ええ、どうぞ」
お菓子作りは、あくまで僕の趣味だ。
比較的安価な全粒粉小麦粉を使ったのも、控え目な材料を使っているのも。
それを、ただ店が開いていないから、来客に振る舞ったに過ぎない。
――それでも。
少なからず、僕は失望していることに気付く。
僕の望みを外していたことに。
「まだ缶いっぱいにありますから」
流刑の果て、シベリアに居続ける老革命家。
おそらくは、微妙な味とは縁遠かったことだろう。
当たり前と言えば当たり前の話だ。
それでもその当たり前を、どうにも僕は受け入れることが出来ない。
たかがお菓子、それはその通りなのだろう。
そんな自分の心の狭さに、僕は困惑するしかない。




