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別問題
「では、ひとつ頂くとしましょう」
「ええ、どうぞ……いや、失礼、まずは僕から食べましょうか?」
これは半分冗談だ。
自分用のクッキーに何かを入れるはずもない。
けれども敵意のないことを示すには、先に食べることがちょうどいい。
老革命家は小さく笑い、それに答える。
「お気持ちだけで、もう十分ですな。頂きましょう」
「ありがとうございます」
僕と老人、ほぼ同時にクッキーに手を伸ばす。
ほどなく、噛み砕くさくさく音が部屋に広まる。
シナモンの匂いと小麦粉の香ばしさ、ほのかなバターの甘い匂いも。
焼きたてではないけれど、なかなかの状態だ。
ひとしきり噛み締め飲み込むと、辺りに静けさが戻る。
「……いけますな」
その言葉に、思わず笑みがこぼれる。
たとえ僕が満足していても、他人の口に合うかどうかはその人次第なのだから。
「いや、気に入って頂けてよかったです」
「決して贅沢な材料ではないでしょう。バランスがいい、控え目な甘さもにくい」
これはたぶん、僕が使った小麦粉から判断したのだろう。
バターもスパイスも、贅沢品でこそないけど安物でもない。




