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小麦粉
全粒粉の小麦粉をバターと砂糖で練り、生地を型で抜いてから主にシナモンから成るスパイスを振りかけ、じっくりと暖炉オーブンで焼く。
どうと言うことはない、かなりシンプルな部類のクッキーだ。
クッキーを分ける小皿は、紅茶の皿でいいだろう。
皿を追加でとなると、微妙に気を遣わせることになるかも知れない。
僕はそのまま缶をとり、食卓に向かう。
「――お待たせしました」
「おお、済みませんな」
「ひとまず、今ある物を持ってきました。お気に召すといいのですが」
これは本音だった。
癖がないのは白い小麦粉――僕のいた時代ではごく普通の――高級品で焼いた方だ。
もちろん、白い小麦粉が手に入らない訳でも、手が届かない訳でもない。
全粒粉を使ってるのはだから、純粋に僕の好みの問題だ。
表皮と胚芽の荒々しい風味が、小麦粉全体を引き立てる。
この荒々しさが、僕の好みだ。
それにこの時代に限って言えば、何と言っても全粒粉小麦粉の方が安いのだ。
困ってこそいないけど手持ちは限られている今、多少なりともありがたい話だ。




