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相方
もたもた考えている内に、僕は一人の名前を思い出す。
「……あまり洒落てはいませんが」
身近な、けれども大切な人間の名前を。
「僕は、ジョゼファに誓います」
「――ふむ。それは、君にとって誓うに足る名前なのかね?」
首都、サンクトペテルブルグに置いてきた女性。
老人の前で、そう口にしたことはあった。
これはだから、それだけでは説明が足りていないとの意味だろう。
「ええ」
頷きながら、僕は思考を巡らせる。
ジョゼファ・鋼鉄の女。
数多の血と恐怖で、遠からず全ロシアを治めていたはずの者。
一方で。
今の僕にとっては……どうだろう。
その諸々を短く述べるのは、なかなかにむずかしい。
「僕の大事なひと――です」
本来、一言では。
むずかしいことに、敢えて踏み込むことはない。
この場ではただ、むずかしいと言うことさえ伝わればいい。




