裏側
「別にむずかしいことじゃないの」
前置きと分かってはいても、その言い回しが今はわずらわしい。
だから、僕はこう述べる。
「それなら、率直にお願いできないかな。大切な午後の作業もあるし、ね」
作業があるのは本当だ。それが大切なのも。
実りを迎えた、収穫の秋。
冷蔵庫も車もない時代にとって、それは特別な意味を持つ。
鉄道敷設による、古典的な――一定地域内のみの不作による――飢餓の消滅からは、まだほんの数十年。
恩恵を受けているのは、都市とその周辺に限られている。
食べ物が当たり前になっていくのは、まだこれからのこと。
この町にしてもそうだ。
馬車と人手だけでは、いざと言うときの備えに十分とは言いがたい。
ゆえに、毎年の冬支度が重要になる。
ジャムもワインも、はたまたキャベツの塩漬けも、冬では日常の食べ物だ。
冬は、生鮮野菜のありがたみが身に染みる季節でもある。
食卓が交通と保存の結晶だなんて、以前は思いもしなかったことだ。
存在することが当たり前なとき、存在しない時のことを痛感するのはむずかしい。
おそらくは、その逆も然りなのだろうけど。
……ここまで考えて、僕は気付く。