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野心
とは言うものの。
僕の野心は今、置いておくとしよう。
最初から露骨にするのは、どう考えても得策ではない。
「かしこまりました。では、何に誓ってもらいましょう?」
主でなくとも、神でなくともいい。
ただ“言葉をたがえない”との言葉でさえあればいい。
自ら述べた誓いでさえあれば、対象は何だって構わない。
少なくとも、僕にとっては。
「そう、ですな――」
一瞬の思案の後、老共産主義者、セルゲイ氏の提案は成される。
「――カール・マルクス、では芸がないですな。第一、彼の身内は資本家階級だ。ふむ――では、あの子に誓いましょう」
「あの子?」
「先程までいた、われらが天使に、ですよ」
その誓いは、決して悪くないように思われた。
少しの間を置き、僕は答える。
「了解しました。では、今この場での宣誓をお願いできますか?」
「ええ」
一瞬、老人は手を十字に切りかけ、仕草をとめる。
右から切る十字は、確かロシア正教だったか。
いずれにしろ、かつての信仰の名残なのだろう。




