芽吹きのとき
共産主義と言う幽霊。
僕にしてみれば、それは信仰でしかない。
信仰であり、亡霊でしかあり得ない。
少なくとも、そのはずだった。
今、20世紀の初頭も初頭ではどうか。
全世界、ことに欧州を中心に巻き起こる狂熱。
目の前にあるのは、その余波だ。
あるいは、数々の宗教の隆盛もまた、こんな風だったのだろうか。
かのプロイセン人を救世主とする信仰。
僕にとっては、あくまで信仰だ。
けれども。
このとき芽生えた感情を、何と言えばいいものか。
確かに、彼らは失敗した。
でも、どうだろう。
既にその結末を知る、この僕なら?
僕は神を信じない。
人知をこえた者も信じない。
それでも、これが誘惑なのは分かる。
ひどく厄介で、ひどく孤独な。
……この文を読んでいる人がいるのなら、ここで言っておこう。
もしあなたが見知らぬ異郷に飛ばされたなら。
そして、暮らしに慣れたなら。
その上で、貴方が何かを変えようとするなら。
思い上がってしまう前に、相談できる関係の仲間を構築しておくべきだ。
真実の予見者、あるいは救世主でもいい。
そんな役柄だとかなり厄介なことになる。
あなたを止めてくれる者など、その世界にはいないのだから。
そう誰も。
その世界では、誰一人として。
――僕にしても、ただ一人を除いては。




