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主義信仰
「主に誓って、ですか」
「ええ」
「――それは、私の身ではできかねますな」
予想外の答えに、少しだけ間が空く。
「……誓うことができない、と言う意味ですか?」
「いえ、誓いはしましょう。ただ、主には誓えないとの意味です」
ロシア正教会の信徒ではない、と言うことか。
これまた、意外だった。
ではカトリックかプロテスタントか――そこまで考え、僕は気付く。
いや違う。どちらにしろ、それなら主に誓えるはずだ。
ならばユダヤか、はたまたイスラムか……いやこれ以上、深入りするつもりはない。
またその意味も今は薄いはずだ。
「失礼しました。では、あなたは――」
「――欧州に幽霊が出る」
その一節には、覚えがあった。
ロシア語学科の出であれば、知っていて不思議ではない代物。
僕は思わず、その先を口に出す。
「共産主義という幽霊が」
「――仰る通りです」
「なるほど……」
確かに、それは誓えないだろう。
“宗教とは悩める者の溜め息であり、鎮痛剤たる阿片である。”
そう喝破した信仰の下では。




