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法と法律
……いや、目の前にいる者を、果たしてただ“老人”とくくっていいものかどうか。
十二月党の乱に参じていたという、数多の歳月を経た革命家。
その正確な歳を、僕は聞いていない。
聞いてはいないけれど、あの事件からはほぼ、77年の月日が経つ。
仮に十代で参加していたとしても、90歳は越えている事になる。
目の前、セルゲイ氏の背筋は曲がってなどいない。
白髪と白髭、額のしわとが、過ごしてきた歳月をわずかに物語る。
僕の目にはせいぜい、60か70にしか見えない。
伝え聞きは本当なのだろうか。
それとも、単なる行き違いなのだろうか。
「――私だけ、一方的に聞くのも何ですな」
僕の考えを見通すように、セルゲイ氏は言う。
「そんなことは――」
「いや、これは個人の法の問題なのです。我が身の上として、法律、とは言いますまい。ただ万人の上、なにがしかの法はあるものです」
確かに、個人の問題ではあるのだろう。
僕の郷里で言うところの、仁義とでも言えばいいのか。




