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つかの間
吐息も通る、シベリアの朝。
そんななか不意におとずれた、穏やかなひととき。
そんな時間はけれど、あっけなく終わりを告げる。
「まあまあ、お気遣いさせてしまって。ではユーリ先生、また後日伺います。マリーナ、帰りますよ」
「で、でも――」
未練があるのはジャムか、それとも紅茶だろうか。
このにぎやかさが無くなるのは、少しだけさびしい気もする。
「でもじゃありません。今度の日があるでしょう?」
「う、うん……」
「行きますよ。では先生、また。ほらマリーナ、挨拶は」
「……またね」
あっと言う間に二人が去り。
当たり前のように、家の周りへ静かさが舞い戻る。
呼応するように、軽く雪が降り出す。
今日の外出はどうしようか。
そろそろ郵便局には、手紙と荷物が着いているはずなのだけど。
本降りになるようだと、予定を考え直さないといけない。
「……僕も戻ろう」
玄関扉を閉め、僕は居間へと戻ることにした。
暖房の効いた、ひどく静かな居間に。




