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団らん
それぞれが、それぞれに楽しむ紅茶。
静かな、穏やかなひととき。
ほどなく、ロシアンティーの時間は終わる。
「おいしかった!」
「うん、おいしかったよ」
ロシア語でこれは、ごちそうさま位の意味だ。
ただし通常、おいしくなかったらこの言葉は無い。
いただきますもご馳走様も、ここには無いのだから。
「――どういたしまして」
感慨を胸の奥にしまい込み、僕は相づちをうつ。
やり取りする言葉も、その形式もちがう。
けれども食後の団らんの雰囲気、それだけは共通のもののように思う。
「さて、マリーナ。お母さんはどうしてるのかな?」
マリーナは母親との二人暮らしだ。
父親の方はと言うと、僕が見かけたことはない。
たぶん何らかの事情はあるのだろう。
でもそこまで踏み込むほど僕は好奇心旺盛でもなければ、他人に関心を払ってもいない。
「たぶん、探し回ってるんじゃないか――」
と、ここで玄関を叩く音。
「……言ってるそばから、来たんじゃないかな」




