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安息日
「じゃあマリーナ、ジャム瓶を開けてもらえるかな? ――ああ、開けるだけでいいよ。取り分け用のスプーンはそこに」
「うん」
無言でセルゲイ老人もそれに続く。
食卓の上には、あっと言う間にふたの開いたジャム瓶3つ。
ほどなく、ほのかに甘い匂いが広がっていく。
冬では貴重な、果物の匂いが。
……僕にしても、瓶あけくらい出来なくはない。
でも自由の利きづらい左腕では、端的に面倒だし、時間もかかる。
人に頼れるときは人に頼る。
今は幸い、その人に不自由はしていない。
そこまで考え、僕は思う。
ジョゼファがこの地にいない。
それがさびしいのは、否定しがたい事実。
でもこんな関係も、決して捨てたものではないのかも知れない。
たとえそれが――ひどく一時的な――僕がシベリアを去るときまでの食卓だとしても。
これを安息、と言えばいいのだろうか。
少しだけ、僕は穏やかな気持ちになる。
この平穏が続くためならば、祈りのひとつも捧げていいくらいに。




