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子供心
やがて食卓はあらかた片づき、食後の時間になる。
食後、つまりロシアンティーの時間に。
心持ち濃い目に淹れた、熱い紅茶。
添えるのは果物を砂糖で煮たジャム、いわゆる浅煮ジャムだ。
いつもより多い来客に、思い切って新しいジャム瓶を出した。
イチゴ、オレンジ、それにブルーベリーのジャムを。
使うのは紅茶カップにジャムの取り皿、そして小スプーン。
小スプーンはジャムをとるのに使う。
ジャムは紅茶に混ぜない。
そんなことをすれば紅茶が冷えるし、ジャムも量が必要になる。
取り分けたジャムを直接なめながら、紅茶を飲む。
そうすることで甘味を強く感じるし、紅茶も熱いままだ。
「セルゲイさん、どうぞ。マリーナ、砂糖は入れる?」
「うん」
正直なところ、この紅茶の濃さは子供にはまだ早い。
早いからこそ、砂糖の甘さが必要になってくる。
それでも、マリーナが薄い紅茶を拒むのは……たぶん、背伸びしたくなる歳でもあるのだろう。
十歳と少し。その年頃の心境を、今になって思い出すのはむずかしい。




