164/350
素直さ
台所の棚から、僕は必要なものを取り出した。
ひとまずカップ一つを右手に、角砂糖の瓶を左脇にかかえる。
食卓に戻り、まずはカップを、もう一人の来賓ことマリーナに渡す。
「ありがと!」
次いで左脇の角砂糖を食卓へ。下準備はこれでいい。
いや、三人分には少し足りないかも知れない。
まあ足りないそのときは、追って足せばいいだろう。
紅茶を淹れるのも黒パンの焼き直しも、今これからの支度なのだから。
「薪の方はどうしますかな? 一応、外に置いてはいますが」
「ああ、じゃあ暖炉の中にお願いします」
「手伝うよ!」
「じゃ、じゃあ頼もうかな……」
にぎやかなのは、決してきらいじゃない。
ただ表裏のない人間は、どちらかと言えば苦手な方だった。
「うん!」
もちろん、素直な笑顔も。
自分がちょっと、いやほんの少し、ひねくれている自覚はある。
素直な行為をどうにも、素直なまま受け取ることが出来ない。
そこに至った境遇については、思うところが無くもないのだけれど。




