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薪
「今すぐ答えることはありません。また、その必要もないことです」
僕の迷いを見透かすように、老人。
「私と違って、ユーリさんには時間がある。急ぐこともなければ、急かされることもありませんでしょう――いや、朝からお引き留めしましたな。家に薪が余っています、よろしければ、引き取って頂けませんか?」
「ありがとうございます」
これは、素直に上手い、と思う。
こちらに引け目を感じさせず、物を渡すための言い回しだ。
「薪は、そちらまで持って行きましょう」
これもまた、僕の左腕の具合を考えてのことだ。
片腕で運ぶのは、むずかしいとまでは言わないけど手間がかかる。
何かに触れないことが、何よりも雄弁なこともある。
「重ね重ね――」
こちらを制し、老人は言う。
「せっかくですから、紅茶をお願いできますかな。ユーリさんの浅煮ジャム、なかなか出せない味ともっぱらですよ」
「ええ、茶葉ともども準備しておきます。では、いったん」
「では」




