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逡巡
僕のすべてを打ち明けるのは、たぶん相当に危険な賭けになる。
と言って今さら、一切何も話さないでいるのはむずかしい。
迷う僕に、彼女は続ける。
「グルジアは本当に、いろいろな人の行き来する場所なの……たとえば、祖国を追われた人も」
――あなたのように。
恐らくはそう省略したのは、彼女なりの気遣いだろうか。
寄る辺のない、この地に迷い込んだ僕への。
そう考えると、どうにも複雑な気分になる。
「でも、みんながそう考えるとは限らない。戦争が終わったの、知ってるでしょう? “次”もあるんじゃないか――そんなお話もあるの」
なるほど、と少しだけ納得がいった。
僕を疑っているのは彼女じゃない、村の人々なのだ。
立派に農場の主とは言え、十代半ばの娘が無関係でいるのはむずかしい。
お人好しはどちらだろう、と心の中で苦笑いが漏れる。
いや、僕にしてもそれは同じだ。
少なくもこの1年、疑念を感じたことなどなかったのだから。
そう思い直してみると、僕の考えも少し変わってくる。
その恩を今、一部分なりとも返すべきではないだろうか?