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問いかけ
「――諦めと言う奴を、ようやく覚えたのかも知れません」
二十数年を生きてきて、ようやく。
「ほう?」
「僕がその気になって考えたなら、ありとあらゆることを何とかできるつもりでした。たぶん、自惚れだったのでしょう。果たして、一度は何とか叶った、でもそうでないこともある」
右の手で、利かない左腕を握りしめる。
寒さのせいもあって、いつも以上にうまく動かない。
「――気まぐれ、とでも言いましょうか。天にいるかも知れない誰かさんは、こちらの代償に見向きもしないこともある。……いや、諦めとは違うかな、単にありのままに事実を、そのまま受け入れるようになった、と言うだけだ」
「ふむ」
軽く顎に手を当て、老人は問いかける。
「だからと言って、何か大きなものを、諦めた訳ではないのでしょう?」
「――それは。どうでしょう、どこからを大きなものと言っていいのか」
譲れないことはもちろん、ある。
けれども。
それ以外を小さなこと、些細なこととしてしまうと、何か大きく間違えてしまう気もする。
その何かが何なのか。
僕にはまだ、上手く言うことができない。




