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ドストエフスキー
あと数分ということろで銃殺を免れた、若き作家。
作家はその後、10年を流刑と兵役に、残りの20年を執筆に費やすことになる。
彼が亡くなったのは1881年、春をもうじき控えた時期。
あの12月の銃殺刑の宣告から、およそ31年後のことだった。
通り一遍の知識をそらんじ、僕は気付く。
作家が生まれたのは、1821年のこと。
つまり1902年の今、生きていて不思議ではなかったのだ。
そう絵空事という訳でもない。
7歳下のトルストイだって、これから80を過ぎて生き続けるはずなのだから。
「それにしても珍しい。今日は何か、買い物かな?」
不意の感慨にひたる僕を、老革命家の声が呼び覚ます。
「――ええ、ちょっと薪を昨日切らしてしまって。こう寒いと、石ストーブの精霊も休む暇がないでしょう。ちょっと大食いになってるみたいだ」
人好きのする笑顔を浮かべながら、老人は言う。
「それがいい。明日できることは明日、今日できることは今日。穏やかに生きるコツだ」




