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星の囁き
それ以上、つまりマイナス30度より過酷な世界に、僕はまだ遭遇したことがない。
けれども、顔見知りの流刑囚の話によると、もっと寒い――およそマイナス50度ほどの――環境では、また違った世界が見聞きできるという。
マイナス40度の段階で、収容所であっても屋外労働は中止される。
いくら外に出そうと、凍えて作業にならないのが分かり切っているからだ。
では、それ以下ともなるとどうか。
人にもよるけど、まず、いくら防寒具を着ていても危険が分かる。
吐息の水分は文字通り凍てつく。
氷点下近くのような、白い霧ではない。
もっと寒々とした、あられめいた白なのだとか。
吸い込むごとに肺を痛めつける空気。
一呼吸ごとに聞こえる、大気のきしみ。
当地では、その音に星の囁きとの名前がつけられているとのこと。
――もっとも、これが決して素敵なだけの現象でないのは伝えておきたい。
その面白さはあくまで、対比する余裕あってのもの。
不可抗力で遭遇してしまったなら、凍傷で済めば相当に運がいいはずだ。




