シベリア
1902年、冬。
僕はシベリアにいた。
不穏な事件を企んだ流刑囚として。
でも当然ながら、シベリアと一口に言っても様々だ。
たとえばシベリアを、広くウラル山脈の東側を指すものとする。
この場合の面積は1300万km²、日本のおよそ3,40倍に相当する。
人口は詳しく分かっていないけど、今は30万人くらいではないかとの噂だ。
もちろん寒い。寒いけど、その寒さにも差がある。
野菜さえ育たない、マイナス70度近くを記録するオイミャコン。
政治犯の地であり、寒極の座を争うベルホヤンスク。
後に金鉱が発見され、最悪の土地とうたわれたコルィマ。
忘れもしない、未だ書かれていない本で、その土地はこう歌われていた。
コルィマよ、コルィマ、奇しき惑星
12ヶ月が冬で、あとは夏
僕の送られたイルクーツクは、さすがにそれほど過酷な土地じゃない。
夏は30度以上になるから、菜園をつくる余地がある。
冬でもせいぜいマイナス20度程度で済む。
マイナス30度の世界も、僕はまだ二回しか見たことがない。
この時、よせばいいのにコップを持ったまま僕は外に出たのだけど、転んでこぼしたお湯は空中でパラパラ音とともに吹雪状になっていた。
霧めいたあの白さは、今でも忘れがたい。




