145/350
判断材料
「……ジョゼファ、君は」
僕が拾われて7年近く。
秘密の告白に、少なからぬ解放感を覚える。
「あくまで僕のいた時代での話だけど――」
そこまで言って。
真面目に、僕は言葉に詰まってしまった。
血塗られた女帝は、まだ誕生してもいない。
それだけならまだいい。
まつわる惨劇を、果たしてどう表現したものだろう。
この地上ではまだ、何千万人単位で人が死んだことがないのだ。
二度の世界大戦、スペイン風邪、時の政権による粛清の嵐。
そのいずれもが、起こってはいない。
そんな今、僕の言うことに説得力があるものだろうか。
……いや、よそう。
説得力を判断するのは僕じゃない、彼女の方だ。
僕のいた時代の、血塗られた事実たち。
それを僕は、ありのままに告げることにした。
次なる戦争と革命を。
現・皇帝一家の最期を。
次いでおとずれる内乱の日々を。
そして全ロシアを統治した、鋼鉄の女の生涯を。




