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手打
「そう、ね……」
「いや、本当に何でもいいよ。もう今さら、何を隠すこともないしね。ただ――」
一呼吸置き、柱時計を少しだけ見る。
午前2時まであと少し。
暖炉のおかげで、決して寒くはない。
けれどもそろそろ、寝ておきたくはある時間だ。
「少し急いだ方がいいかも知れないけどね」
寝坊した挙げ句に住居へ踏み込まれるのは、さすがに勘弁して欲しい事態だった。
言い出した約束の代価は高くつく。
それがどんなに、一方的な状況下のものであっても。
「なら、今はひとつだけね」
この率直さが、僕にはこわかった。
何でもいいとの僕の言葉。
そんな一見の自由に惑わされない、その端的さが。
……なのに、どうしてだろう、今の僕はどこか、心躍る思いを抱いてもいた。
「――ユーリはどうして、私をシベリアに行かせたくないの?」
素晴らしい。そう今は思う。
ひどく危険だ。そう思いつつも。
それだけ無駄のない、完璧な質問のように僕は感じたのだ。




