有為転変
「まだ僕が行った方がいいよ。とりあえず、シベリアで何か課せられる訳じゃないんだよね? まあ僕のこの左腕で、無理なことさせられるとも考えづらいけど」
「――そう、なのかな」
「……僕としても、そこで言葉を濁されると困るよ」
前提がひっくり返されるとなると、また考え直しになる。
避けたいところではあるけど、とは言え不確定要素がまぎれるよりは遥かにいい。
「そうじゃないわ」
「また冗談なら――」
「今度は、真面目な話」
その言葉に、ひとまず僕は黙る。
そう前置きしてまで、彼女が冗談を言う理由はない。
「ユーリ。あなた、何を隠してるの?」
不意の問いかけ。
言葉にこもる、わずかな不信の色。
「ジョゼファ、いったい何を」
「それはこちらの台詞。この期に及んで、それは無いんじゃない?」
僕は口ごもる。
口ごもらざるを得ない。
「――そう言われても、具体的に言ってもらわないと分からないよ」
――君は後の血塗られた独裁者だ。
――少なくとも、その可能性がある人間だ。
――シベリアに行けば、その可能性が上がるかも知れない。
面と向かって言えるほど、僕の心臓は強くない。




