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思案
「ユーリが大丈夫なら、それでいいけど……」
「大丈夫、と思う」
と言うより、僕にはそうとしか答えようがないのだ。
革命勢力と彼女との邂逅。
彼女が利用されるとは考えづらいにしても、火薬庫での火遊びはゴメンだ。
流刑地とは裏を返せば隔離環境でもある。
衰亡のロシア帝国に、隆盛の反政府組織。
下手をすれば、勢力の巣窟となっている可能性まである。
そんな土地に、頭の切れる人間が一人加わるだけで、既に危険な事態と考えるべきだ。
事実上、彼女を行かせる選択肢はないと言っていい。
けれど――。
「まだ流刑とは限らないけどね。でも、そうなったら留守中はどうしたものかな……」
1901年1月。
日露戦争開戦まで、あとわずか3年ほど。
元々、むずかしい話ではあった。
でも仮に流刑ともなれば、この期に及んでの留守はおそらく致命的だ。
正直なところ、この戦争については半分諦める気になっている。
十数万人を諦めるということ。
ひどく気が重いけれども、現状、厳しいものは厳しい。
――今後も僕は、そうやって割り切れるのだろうか。




