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意味
「私の聞く限り、無理矢理の労働とかそう言うことはないはずよ。いくら政治犯でも、あの皇帝――ニコライ二世は、そこまで非道な扱いはしない。まあ死ぬことはないでしょうけど、進んで行きたい場所じゃないのは確かね」
誤解を解きにきた、ジョゼファの方の意図は明らかだ。
いざというときの為の、僕の余裕確保。
そして僕が“万が一にも何か早まったりしないように”との念押しだ。
その意図は、もう十分に成功している。
「うん。そうだね」
安堵と同時に、この新たに生まれた選択肢、その意味を考える。
通常の範囲では、わざわざ政治犯として流刑にされる意味はない。
―――あくまで通常の範囲では。
それでも、やはり引っかかる。
いったい僕は、何を見落としているのだろう。
「まあいざとなったら、私が身代わりにシベリア行きね。ユーリがペテルブルクを離れるのも、今ここで経歴に傷が付くのも、マイナスにしかなりようがない」
「……あ」
そうか。
その可能性があったのか。




