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凍土地帯
けれども彼女の顔は、いっそう難しくなった。
「どうしたの?」
「――気付かない? それなりに人手を割いた、けれどもその場で捕まえないような事案」
さすがに、官憲の事情はちょっと分からない。
素直に僕は宣言する。
「降参」
「単純な誤解なら、それなりに手を回すこともできる。でも――政治犯となると」
「……あ……下手をするとシベリア行き、か……」
静かに、彼女はうなずく。
シベリア。
凍土。流刑。労働。
僕にとってシベリアの印象は、あまりいいものとは言いがたい。
「そう、か……」
何もかもが、急に現実味を帯びてくる。
もし、遠方に送られたとして。
耐えきれないであれば、その先はないのだ。
僕の野望も、そこまでと言うことになる。
自然、僕の顔は険しくなる
「あ、そうね」
何かを思いだしたように、彼女。
「ユーリ、今はまだ、そうじゃないわ」
「……シベリアは、シベリアだと思うけど」
僕の知る環境が、数十年で寒冷化してのものとは考えづらい。
何しろ、ロシア帝国自体からの流刑地なのだから。
「ええ。そうだけど、そうじゃないの」




