相克
「――ついさっき、官憲に尋問されてね」
「連行はされなかった?」
「あの場では避けた、てだけだね……。一応明日、1日の昼過ぎに追って出頭、と言うことにはなってるけど」
彼らの言い回しからして、僕の担当に人数が割かれている訳ではないだろう。
少人数での、つまりそこまで重要と見なされていない捜査なら、あの反応もうなずける。
仮に大人数での捜査ならどうか。
その場合は多かれ少なかれ、個人の欲というものが出る。
自分で手柄を、との欲が。
手柄の保証が一切無い状態での一時放免は、いくら何でもあやうい。
――いや、手柄を逃すだけならまだいい。
大人数ならば、他人を追い落とそうとする者まで出るかも知れない。
いずれにしろ、手許の判断材料からは考えづらかった。
「いったん家に帰れたところを考えると、そこまで重要視されてる訳でもなければ、証拠が固まってる訳でもない、と思う」
この証拠との言い回しに、彼女は別の意味を取ったようだった。
「ユーリ」
「……なに?」
「強盗? 殺人?」
真顔で物騒なことを言う。
「……どれだけ信用がないのかな、僕」
「念のため、よ」
これはさすがに、真っ向から否定せざるを得ない。
「幸い、そう言う犯罪をやったことはないし、身に覚えもないね」
――もっともこれは、“今のところ”なのかも知れないけれど。




