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語源
新年の食卓には、いろいろなものが並んでいた。
僕ももらった、みかん。
出かける前に作ったサラダ。
買い置きのシャンパンとグラスふたつ。
その横が、パンの上に具を乗せたオープン・サンドイッチ。
ここまではいい。
オープンサンドの、切られた黒パンの上に乗っているのは。
「イクラ……?」
日本語で発音してみて、やっと気付いた。
「――あ、魚の卵、か」
「日本にもあるの?」
これは、日本でも食べるのか、との意味だろう。
「うん。ただ、あっちでイクラと言ったら、鮭の卵のことだね」
「宮廷で、新年はこんな感じの食事って聞いて。日本でも、なのね」
さすがに、これは狙った訳ではないらしい。
「そう安くはないし、あまり普段から出てくるものじゃなかったけどね。でも、新年のお祝いにはよく食べるよ。だいたい醤油漬け――発酵させて塩気を利かせた大豆ソースに、何日か浸しておいたものが出るね」
片や醤油漬け。
片やバター塗りのパン。
新年のイクラは、ここロシアでも受難らしかった。




