役割
「――おい、ふざけろよ」
割って入ったのは右側の男だった。
「トボケるつもりかよ、お前、知ってるだろ」
「おいよせ、ホコリを叩くのが目的じゃない」
止めに入る中央の男。
左側の男は一言も話さない。
ただ淡々と、こちらの方を注視している。
――なるほど、と僕は思う。
役割分担程度には、分業が成されているのだろう。
なだめ役に脅し役、それに監視役と言う訳だ。
不意に僕は、この場にいない男を思い浮かべる。
僕に恩義を貸し付け脅しすかし、そのまま去っていった男。
あのときも今回も、どちらにしろロクでもない。
けれども、比べれば今回は三人。
足し算である腕力はともかく、話術の技量としては各人、あの男の三分の一未満だろう。
そう考えると少しだけ、余裕のようなものも生まれてくる。
「そ、そう言われても……」
まずは、フリから入ることにする。
適度な怯えと若干の困惑。
この手の男たちは、怯えも反抗も対処し慣れているはずだ。
裏を返せばそれ以外、複雑な反応への対処はむずかしい。
たとえば、怯えた態度を装う相手との、腹のさぐり合いといった局面には。
職務への忠実と、忠実であるがゆえの融通のきかなさ。
こちらにしてみればそれは、大いに付け入ることができる隙だ。




