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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1900年、サンクト・ペテルブルク
116/350

来る年

 僕は仕事を切り上げ、外套を羽織る。

 もちろん、みかんの入った紙袋も忘れない。

 忘れ物がないか確かめた後、そっと鍵をかけ、仕事部屋を後にする。

 廊下を歩き守衛に鍵を預け、そのまま街へ出た。


 紙袋を抱えながら、僕は心持ち家路を急ぐ。

 氷点下の外気に触れたみかんは、ほんの少し白を帯びる。

 帰ったらこの果物について、彼女に話してみようと思う。


 新年恒例の角切り野菜の(オリヴィエ)マヨネーズあえ(・サラダ)にシャンパン、いくばくかの果物が家で僕らを待っているはずだ。

 もっとも、お互い用事があったこともあって、サラダの方は作り置きだ。

 小型の冷蔵庫なんてまだないけど、この冬の寒さで冷蔵庫はいらない。

 単に暖炉をつけていない部屋の、窓際に置くだけでいいのだから。


 街中は午前0時近くと思えないほどだ。

 酒場はもちろん、ごく普通の料理屋も開いている。

 橋の上は花火目当ての人々で賑わっている。

 至るところで酌み交わされる祝杯。


 ほどなく、花火があがり始める。

 ロシアの冬。

 ペテルブルク(ピーテル)の昼は短く、夜は長い。

 そんな夜が、今日は少しだけ短い。

 飛び交う火花(イスクラ)、あたり一面の火薬の匂い。


 1900年が終わろうとしていた。

 僕が声を掛けられたのは、そんなときだった。


「失礼。ユーリさん――ユーリ・アリルーエワさんですね?」

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