風物詩
異国の地での、思いもよらぬ食べ物との再会。
もはや郷愁と別れたはずの旅人が、なぜ不意に故郷の味を欲するのか。
甘酸っぱいみかんを頬張りながら、僕は初めて、その思いが分かる気がした。
たぶん、と僕は考える。アメリカはあくまで経由地なのだろう。
幕末、日本とアメリカとの交流の“果実”。
おそらくはそんなところだろうか。
もちろん、桜の木がアメリカ、ワシントンに植えられたのは知っていた。
けれども、果物ひとつにもこんな歴史があろうとは。
彼女はどこまで、この果物のことを知っているのだろう。
――いや、そうむずかしく考えるまでもない。
僕に最初隠したことを考えると、ほとんど承知の上のはずだ。
もう一個のみかんの皮をむきながら、僕は想像する。
あるいはロシアの地でも、みかんが冬の風物詩になるのだろうか。
オレンジに親しんでいる土地に、みかんの入る余地があるかは分からない。
けれども、できればそうあって欲しいと思う。
「……とりあえず、家に戻ろうかな」
何はともあれ、僕はお礼を言いたくなったのだ。
――いい年になりそうだ。
そんな気分にしてくれた彼女に。




