107/350
取捨選択
彼女の言うことはよく分かる。
百歩譲って、“怪人物”が力を増すところまではいい。
問題は、それが大っぴらになることだ。
それは取りも直さず、皇帝の力を貶めるだろう。
そんな力の低下を緩衝する余裕は、今のロシアにはない。
皇帝の力にヒビを入れてしまっては意味がない。
つまるところあくまで内密に、皇帝を補佐する必要がある。
「問題は、何をどう補佐するか、ね。ユーリには、何かいい案はあるの?」
「物凄い名案って訳じゃないけど――ひとまず、情報収集とその取捨選択が肝心なんだと思う」
「収集はともかく、選択?」
「うん。たとえば、あからさまに誰でもできる要件は、事務的に処理してもらうとか」
皇帝が下々の案件に触れるのは悪くない。
けれども、それに時間を費やし過ぎるのも考え物だ。
あらかじめ取捨選択を行えるのなら、その浪費は免れる。
私的な時間がとれるようになれば、自然、余裕も生まれるはずだ。
組織や怪人物に、つけ込まれないだけの余裕が。
ただし、それは――。




