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軽やかに
ふたつのコップに、僕は若々しい自家製ワインを注ぐ。
陶器のコップはすぐ、赤い液体で満たされた。
ふたつのそれを、ひとつは僕の手許に、もうひとつを彼女の方に渡す。
「――飲もう」
当てつけでも意地悪でもない。
純粋に、彼女とそうしたかった。
ただそれだけの話だ。
「一人一人飲むだけじゃ、ちょっと味気ないからね」
不意を突かれたように、彼女。
若干の渋い顔をしながら、コップを手に取る。
何はともあれ、意を受け取ってはくれるらしかった。
「私、もしかして甘やかしてるのかな……」
「普段が厳しいからね、たまにはいいんじゃないの」
自由の利く右手で、僕は軽くコップを持ち上げる。
彼女もまた、それに応じる。
軽く陶器のぶつかる音。
ほどなく、普段着のワインは飲み干される。
甘さの合間に程良く酸味の利いた、軽やかな後味。
「――いいね」
「普段はそういうこと、ほとんど言わないのに」
「そうだったかもね……でもこれからは言うよ。言うようにする」
たとえこの地を離れても。
きっと僕は、こんなグルジアワインを飲み続けるだろう。




