プロローグ
薄暗い部屋の中、ふっと俺の意識は覚醒する。
ここがどこなのか、検討もつかない。
ただチカチカ光る豆電球の下、不気味なピエロが俺を見下ろしていた。
「ヒャーッハッハッハ! ようこそ、少年!
ずいぶん不思議そうな顔をしてるなぁ? そりゃあそうか。
突然こんな場所に連れてこられたら、不安になっちまうよなぁ?」
ピエロが何か言っている。とりあえず狭い部屋だから声が響いてうるさい。
えーと、俺は確か、学校帰りで、カラオケで一人で熱唱していたはずだ。
おっとヒトカラをバカにするなよ。遠慮なく好きに歌えるのは素晴らしいことだ。
恥ずかしいことじゃないし、ぼっちってわけじゃないぞ。
「おい、ピエロ。ここはどこで、お前は誰だ?」
「当然の質問だな、少年。しかし、聞いてどうする?
お前はここから出られないし、助けなんてこないぜ」
確かにな。俺は椅子に縛り付けられてる。首から上以外動けない状態だ。
とはいえ、聞かないわけにもいかないだろう。
「そんながっかりするなよ。特別に教えてやるからさ。
オレッチの名前はグレイニール。気軽にグレちゃんとでも呼んでくれ。
そしてここは、ワクワクとドキドキの入り口だぜ。面白いことが起こるかもな。
お前さんの大好きな一人カラオケよりも」
今の答えでわかったことはピエロの名前だけ。でも長いからピエロでいいか。
それ以外は理解できない。
ああ、そうか。顔を白く塗ってる時点で、愉快犯と気づくべきだった。
「なあ、あんた。俺を誘拐しても大金どころか一銭も手に入らないぞ。
両親は海外で働いていて、俺は一人暮らしをエンジョイしてるからな」
「おっと、そいつは大失敗しちまったぜ。
なんてなぁ。誘拐でも金でもないんだぜ」
「それなら、いったいあんたの目的ってなんだ?」
「そいつを今から説明するところだったのさ。
今の子はすぐに結末を求めちゃうからいけないなぁ。
物事には順序ってもんがあるし、初対面ならコミュニケーションからだろ?」
俺を椅子に縛りつける怪しいピエロとコミュニケーションなどとりたくない。
その二つ以外にありえる目的っていったいなんなのだろうか。
「こほん。それじゃあ説明してやろう。
今からお前さんには『異世界』に行ってもらうぜ!
それじゃあ頑張って生きろよ!」
「はぁ? まて、それじゃあなんの説明に」
ピエロに向かって抗議しようとしたが、最後まで言うことはできなかった。
理由は、唐突にピエロが消え、一面草原が広がっていたからだ。