夢が無くなるとき
僕は毎日夢を見る。それも内容はとても現実味のある夢だ。自分の部屋のベッドから目が覚めて、現実と何も変わらない生活をする夢だ。毎日見るせいか、見た夢の内容を明確に記憶から引き出せる。ここまではよく見かける普通の人と変わりはない。
問題はここからなのだ。
現実味のある夢の中に、時々凄まじく現実離れした現象が出現する。例としてあげるなら、突然家が消えたり、人が大量に死んだり、トイレが爆発したり…そんな感じだ。それを僕は「イレギュラー」と名づけている。こいつの恐ろしい所は、この「イレギュラー」が夢に現れるとそれがそのまま現実へ反映されてしまう。
予知夢とはワケが違う。
僕のせいで周囲の人間を苦しめることにもなるし、楽しませることにもなる。
この奇妙な能力は誰にも話していない。
何故なら話せる人間が僕の周りから消えた。そう、僕のせいで周りの人たちが消えた。
親も、友達も、恋人も。だから僕は独りだ。これからも独りだ。どうせ新しい関わりを持った所で、僕の夢で死ぬと思うから。
この「イレギュラー」を利用して皆を生き返らせることができたらどれだけ幸せかと何度も考えた。でも、夢はそれを叶えてくれない。皆が死んだ後の生活を送る夢が延々と続いていくだけだった。
生まれつき持ったこの能力は、子供の頃は非常に嬉しく思った。アメ玉がおもちゃ箱の中から大量に溢れだしたり、お留守番してる間だけクマの人形とお話できたり、幼い頃の僕にとってそれが「イレギュラー」だった。夢のある夢だった。
歳を重ねていく度、知りたくもなかった現実を知っていった。
殺人、イジメ、自殺、社会の黒さ。そんな事を知ってから僕の見る夢は、いつしか夢の無い夢へと変わった。
一生、家から出ること無く両親に愛され、世間を知らないままの生活を送っていたらどうなっていただろう。あの頃の夢に満ちていた僕は何処へ消えたのだろう。
これからも僕は誰もいない家で独りだ。
願いが叶うなら、夢なんてもう見たくない。
こんな能力、無ければよかった。