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異界の巫女  作者: ハル
ゲームスタート
50/56

怪し気な気配

 王子や姉から何かしらのアクションがあると思われたが、何事もなく休みも終わり週明けの月曜日になった。

 どうして?王子ならユキさんの心配さに真っ先にやってくると思ったのに。

 予想を裏切る形になり、まさに嵐の前の静けさのように感じる。

 ひとまずいつものように登校し、Aクラスの教室へと時間ギリギリに入る。するとそこにはいつもと違った様子が確かにあった。


「大丈夫か、ユキ?」

「ごめんね、ユキ。私気づいてあげられなくて」

「くっ……!許せない、いったい誰が……」

「みんな、ありがとう。私なら大丈夫だから。ただの悪戯かもしれないし」


 ユキさんの場所を取り巻くように、いつもの王子と姉とウィラクス。その様子は静かな怒りに満ちていた。

 いったい何があったのか。やっぱり机にゴミでも詰まってた?

 気になるとこもあったが、普段のアーシャとしては首を突っ込むわけにもいかない。いつも通り誰も気にしないまま、自分の席へと進む。すると普段なら話しかけてこないはずが、今日は姉が目敏く気づいて私の名を呼んだ。


「アーシャ!ちょうど良かったわ。貴女にも話さなきゃね」

「お姉様……?」

「実はね、今朝方ユキのロッカーに針が仕込んであったの。それに気づかずに開けようとして、ユキが怪我を負ってしまったわ。しかも今日はたまたま私がいたのだけれど、ユキに聞いたら初めてじゃないって言うのよ」

「え……」


 思わず、素で呆然としてしまった。

 姉の言葉を理解するのに私はいくらかの時間を要してしまった。


「アーシャ、貴女も本来はユキのことを気にかけてあげなければいけない立場なのよ。分かってるわよね?もしユキの周りで不審な人物がいたらすぐに教えてね」

「はい……」

 

 まさかカマをかけているのだろうか。

 しかし姉の言葉は本気で言ってるのが分かるし、肝心のユキさんの周りにいる王子もウィラクスも私のことを気にも留めていない。

 てことは、まさかカインはあのことを話してないの?

 ならばいったいそれはなぜ?

 考えれば考えるほど、思考はこんがらがった。


「しっかりしてよね、アーシャ。ちゃんと五大貴族の自覚を持つのよ」


 半ば呆けていた私に呆れながら、姉はユキさんのもとへと戻っていく。その時にユキさんと視線があったが、彼女は遠慮がちに会釈をするだけだった。

 まるで心配かけて申し訳ないというように。

 カインが話してないのならばそれはそれでいいのだけど、理由が本当に分からない。後で直接聞いた方がいいのかしら。

 この先何が起きるかも分からず、私はいつも以上に上の空でその日の午前中を過ごした。







 午後は戦闘実技の授業だ。

 一週間のうち、この月曜の午後が一番賑やかと化しているだろう。それも実技を受ける生徒の数だけでなく、見学するギャラリーの数が多いのが最たる理由だ。

 私はナギが終わるのを待つべく、適当に暇を潰しながら見学していた。今日は前のような模擬戦などではなく、普通に素振りから始めている。

 いくらなんでもこんなの見ても面白くはないわよねぇ……。

 それでもギャラリーが絶えないのはシルヴァさんの効果か、もしくは王子たちの効果なのか。

 まあ少なくともユキさんと姉に関しては、あまりシルヴァさんへの関心はないようなので何よりだろう。


「あら、アーシャさん。こんなところで一人で見学ですか?」


 私が今いるのは学院の校舎の三階、渡り廊下だ。この時間に人が通るとは思わず、僅かに驚いたものの、声を掛けてきたのは見知った女性で一安心した。

 オレンジ色のボブカットに眼鏡がトレードマークの可愛いらしい姿。

 年上の人に抱く印象でもないんだけど、誰もが彼女を見ればそう思うだろう。


「ミランダさん」


 私と同じく冒険者ギルドの一員でAランクの実力の持ち主である魔術理論担当の講師だ。当然仲間である彼女も私の事情をよく知っている。

 同じ冒険者と講師仲間であるシルヴァさんとは大変仲も良く、現役の冒険者時代はパーティーも組んでいた間柄だ。二人の関係性については詳しく知らないものの、その信頼の絆は想像以上のものなのだろう。


「……自分を偽るとは難儀なものですね」


 ミランダさんは私の隣に寄りながら、同じように階下に広がる戦闘実技の授業風景を除いた。その言葉の意味は恐らくこんなところで一人で見学していたからだろう。


「……そうでもないです。それに、これは私が決めた道ですから」

「そうですか……。アーシャさんは本当に強いのですね」

「いえ……」

「貴女がどれだけ苦難な道にいるのか、私たちにはとても計り知れない。ですが……何が起ころうとも私やシルヴァさんはアーシャさんの味方ですから。それをどうか忘れないで下さい」

「ミランダさん……」


 彼女の優しさが心に染みる。その言葉は純粋に嬉しく思えた。

 私は思っている以上に冒険者の仲間に恵まれているのだ。


「それはそうと、アーシャさん。最近学院の中で不穏な魔力が渦巻いてます」

「え……?」

「とても深い憎悪のような負の感情から来る魔力です。何か嫌な気配がして……どうかお気をつけ下さい」


 唐突に放たれたミランダさんの言葉に私は深く動揺してしまった。

 不穏な魔力。それはやはりあの女生徒のものなのだろうか?


「……それはいったいどういう……?」

「私にもよく分からないのです。探ろうにも上手く躱されて……」


 ミランダさんが見つけられない。その意味は私に衝撃を与えるには十分だった。

 魔術理論の講師でAランクの魔道士。それは私なんかよりも遥かに強い存在だ。ましてやミランダさんは感知能力に長けている。そんな彼女が見つけられない魔力が、学院の中に渦巻いているというの?


「アーシャさんは何か心当たりでも?」


 その言葉にあの女生徒が頭を過ぎったが、ミランダさんが言う魔力はきっと彼女のものではないはずだ。あれくらいの魔力なら私でも感知できるはずだから。


「いえ……ですが気に留めておきます。ミランダさん、ありがとうございます」

「どうかお気をつけて……」


 ユキさんと関係あるのかどうかも分からないが、これから何かが起こりそうな予感がした。

 創立祭の魔物の件もある。気は引き締めないと。


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