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異界の巫女  作者: ハル
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番外編:Sランク冒険者の想い

 アーシャと初めて出会ったのは十二年前のある日のことだった。

 当時はまだまだ冒険者として未熟だった頃で、日々鍛錬をしながら任務をこなすことの毎日で精一杯だった。

 そんなある日のこと、ギルドで任務を選んでいたところに小さな台風が現れたのだ。

 冒険者ギルドに似つかわしくない小さな女の子、アーシャ。

 初めは迷子なのかと思ったがどうやら違うらしい。待ち人がいるみたいで、彼女の父親がギルドにいるのかもとそんな風にくらいしか思っていなかった。

 だけど今でも鮮明に思い出せる。

 武器を持って武装している多くの冒険者が周囲にいる中、彼女は何一つ恐れた様子を見せずに、むしろ興味を持つように凛とした姿でいたことを。

 傍から見ても年相応の少女とはかけ離れていたのは確かだ。

 そして驚いたのは、そんな彼女の待ち人が誰もが知るアークさんであったことだ。

 アークさんに息子がいるのは誰もが知る事実だったが、娘がいるとは聞いたこともない。だからこそどんな関係なのか誰もが訝しく思い、興味を惹かれていた。

 ギルドのみんなが注視する中、話の内容は聞こえてこなかったが、どうやらアークさんたちのパーティーが少女に戦いを教えることになっていたのだ。

 その時の俺の衝撃は大きかった。

 なにせ今まで幾度もアークさんに剣を教えて欲しいと頼み続けてきたのだ。それが悉く断られていたというのに、何でそんな少女に教えるというのか。厳密にはアークさんが剣を教えるというわけではなかったが、当時の俺にはそんなことで片付けられるわけにもいかなかった。

 それくらいに、アーシャと名乗った少女に嫉妬していた。

 直接アークさんに尋ねたことがあった。

 なぜアーシャに対してそんな親身になるのかと。その様子は外から見たらまるで娘のように接するようなものだったからだ。

 それを聞いたアークさんは困ったように笑っていたのも覚えている。そして内緒な、と言ったことも。

 まだ子供だった俺にはその意味を理解することは出来なかったが、アークさんにとってアーシャが特別なのだということは分かった。まだ嫉妬心は完全に消えなかったが、それ以上にアークさんが目にかけるアーシャが気になり始めたのはこのころからだった。




 アーシャはギルドに通いながら、ギルドのメンバーとも顔見知りになり多くのやつがアーシャに声を掛けるようにもなった。

 彼女のひたむきな姿にみんなが心を奪われていたのだろう。俺も話しかけることはなかったが、アーシャが現れる度にその姿を目で追っていた。

 そして、忘れもしない十年前。悲劇は突然に訪れた。

 この国で、いやこの大陸での最強パーティーとも名高いアークさんたちの死だった。

 誰もが悲しみに暮れた一日だった。それほどまでに、アークさんは俺たち冒険者にとっても憧れの存在だった。

 そんな時に、アーシャが息を切らして飛び込んできた。いつもと違い、明らかな貴族の服を纏った可憐な姿でもあった。

 けれど彼女もアークさんの死を知り、泣いていたのだ。その純粋な涙に、ようやく彼女も俺と同じなのだと悟った。

 アークさんに強く憧れ、アークさんの死に悲しんでいる。それまでいらぬ嫉妬を抱いていた自分を恥じた。

  



 アークさんが亡くなってからアーシャは姿を現さなかった。誰もが口にはしなかったが心配をしていた中、ひょっこりと現れたのは五年前。

 前触れもなくやってきた彼女は、冒険者登録しにギルドにやってきたのだ。真っ先にマスターがそれに気づき、アーシャを知る他の面々も彼女の帰還をとても喜んだ。もちろんそれは俺も例外ではない。

 それから数日後にアーシャが再び現れた時、俺は初めて彼女に声を掛けた。アークさん一筋であったアーシャは俺のことを知らなかったようで、それがおかしく面白かった。

 アークさんが亡くなってから、俺は今まで以上に剣の鍛錬に努めた。学院を卒業すると同時に武者修行の旅に出た時、そこで出会った魔物を対峙したことにより俺はSランクの称号を得たのだ。

 アークさんの再来だともてはやされることもあったが、俺なんかアークさんの領域に到達するなんてまだまだ先だ。けれどアークさんの剣技を密かに盗み覚えた俺の剣は、アーシャにはすぐに分かったようだ。

 俺たちの中で共通の話題であるアークさんがいることで、俺とアーシャはすぐに打ち解けることができた。

 一方で、アーシャが貴族の娘であることはギルド内でじわじわと広がりつつ、俺はマスターから密かにアークさんとアーシャが血縁であることも知らされた。

 その時にようやくアークさんの言葉の意味を理解できたのだ。

 アークさんはきっとアーシャを娘のように思ってきたし、守ろうとしていたのだろう。その想いは自然と俺の中にも引き継がれていた。

 このころから俺の中でアーシャは妹のような存在になりつつあったのだ。

 ちなみにまさかアーシャが件のデュークの婚約者と知ったのは随分と後のことで、そのときばかりは本気で自分の軽い発言に後悔した覚えがある。




 貴族を良く思わない冒険者は多い。

 最初はアーシャもそんな彼らから目の敵にされることもあったが、そんなことを歯牙にもかけない彼女の姿にやがてみんながアーシャの存在を認めていった。

 特にあのレンの信用を得て同じパーティーを組んだのだから尚更だろう。彼女は自覚していないが、今となってはアーシャはギルドの中心人物の一人でもあるのだ。ランクはまだ低いし、そこまで強いというわけではない。けれどアーシャの存在はみんなの心を癒すのだ。俺だって例外じゃない。

 その一方で、アーシャには何かを抱えている秘密があった。

 それが何なのかを教えてくれはしなかったが、アーシャは死に怯えている。ひたむきに強くなろうとしている。そんな彼女を見守ることしか出来ない俺は、なんて力不足なのだろう。

 学院の講師へと就職したのも、ギルドの外ではいつもと全く違った性格を装っているアーシャを見守りたかったからだ。もともとイザベラさんに誘われていた話に俺は乗っかり、ギルドからも学院からもアーシャを守りたかった。

 これは俺のエゴだろう。きっとアーシャは望んでなんかいない。

 それでも俺はこれからもアーシャを守り続けるだろう。アークさんが彼女を守ろうとしたように、俺も守りたいんだ。




 なあ、アーシャ。お前は俺たちを信用していないのか?


 今回の事件だってそうだ。あの魔物が現れた理由に何か感づいているものがあるのか?

 俺はお前を守りたいんだ。そう思ってるのは俺だけじゃない。

 レンもグラムさんも、ミランダもイザベラさんも、ギルドのみんながお前を心配している。

 どうかそれを分かってくれ。

 そして俺たちを信用して、お前の抱えているものを話してくれよ。


 なあ、アーシャ。そんなに俺たちは頼りないのか?


 待ってるからな。お前がいつか俺たちに助けを求めてくれるのを。

 その時には俺はすぐにお前のそばに駆け付けよう。

 お願いだ、アーシャ。

 アークさんの分もお前を俺に守らせてくれ――


 例えそれが、俺のエゴだとしても。




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