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異界の巫女  作者: ハル
ゲームスタート
41/56

不穏な仕事

「遅ぇ!どんだけ時間が掛かってんだよ!」


 冒険者ギルドの中へ入ると、開口一番レンから怒号を浴びせられた。

 耳を塞ぎながら時間を確認すれば、決して遅刻ではない。ギリギリではあったが。

 相変わらず、うるさい。

 レンには何も返さずに、ギルドの中を見ればいつになくそこには多くの冒険者たちが揃っていた。

 確か今日はギルド総出で建国祭の警備にあたるはずだ。だからこんなに人が集まったのだろう。知っている人も多いと周囲を見渡せば、私に近づく大男がいた。


「久しぶりだな、アーシャ。元気にしてたか?」


 久しぶり、と言っても先月には会っている。

 茶髪の筋肉隆々の大男。身の丈は二メートルに近いだろう。年は三十を越えているおっさんだ。

 名はグラム。私がレンと共に組むパーティーの仲間だ。

 私はレンとグラムと固定のパーティーを組んでいる。もうかれこれ四年となる付き合いだ。

 学院の生徒でありながら冒険者稼業をこなす私たちに、よくもまあ飽きもせずに付き合ってくれているもんだと常々思う。元々がお守りとして組んだ分、面倒見はとてもいいのだろう。彼には頭が上がらない。ちなみに私たちパーティーのリーダーも務めている。


「えぇ。そっちはどう?」

「ハハッ、相変わらずだよ。お前たちがいない間は暇で仕方がない」

「別に他の人たちと組んだっていいのよ?」

「まあなぁ。だけど今さら他の奴と組んでも何か違うんだよな。だったらお前たちを待っている方がよほどいい」

「そう。……ありがとうね、グラム」


 彼にそう言われれば、悪い気はしない。見た目は厳ついし熊のようだが、その中身はとても優しいのだ。レンも少しは見習ってほしいくらいに。


「お前、考えてること分かりやすいよな」

「お互いさまよ」


 いつの間にか隣に来ていたレンがしかめっ面をしながら睨んでくる。今さらそんな睨みに怖くも思わない私は、軽くそれを受け流した。

 久しぶりに集まる三人に、私の気持ちは思いのほか昂揚しているのだった。

 それから少し仕事の準備を初めてから、ようやく約束の時刻となった。


「よし、そろそろ時間だな」


 いつの間に現れたのか、シルヴァさんがギルドの中心に立っていてみんなを見回していた。Sランクを持つシルヴァさんは、当然ギルドの中でもリーダーのような存在だ。自然とこういう時に纏め役となることが多い。

 実はこの国に登録しているSランク冒険者はもう一人いるのだが、滅多にギルドに顔を出さない。私も会ったことすらないレアな人だ。


「みんなも知っての通り、今日の依頼は王国騎士団からで、建国祭の間の街の警護だ。特に今年は三百年の節目として祭りは派手に行われるし、その分外部などからの危険の可能性も多い。暇がある冒険者は全員今日の依頼に臨んでくれ。詳しい話はまもなく騎士団の人が来るからそこで聞く」


 内容は全て事前に聞いた通りだ。どこを担当するかなどはこれから決まるのだろう。

 街中を冒険者と騎士団、兵士たちで警護するなど、今日が最初で最後かもしれない。それほどに大がかりなものだった。果たしてそこまでする必要があるのかが、私の疑問である。

 ゲームでのイベントは主人公自らウィンダリア家の代表としてパレードに出る。特にその間に何か事件が起こるわけでもなく、楽しい一時を攻略対象者たちと過ごすのがイベントだ。全員とのスチルも用意されており、プレイヤーからも人気のイベントである。

 ボーっとゲームのことを考えていたら、シルヴァさんに呼ばれた。


「アーシャ、今日はこれを着といた方がいいだろう」


 手渡されたのは魔道士用のローブだった。

 主に魔法を使う私はギルドでは魔道士に属する。そして魔道士の標準装備はフード付きの一体型のローブがほとんどであったが、私はそれを身に着けることはあまりなかった。どちらかというと動きやすい軽装を好む。弓も扱うのが理由だ。

 私はすでに冒険者用の軽装に着替えは済んでいる。髪もいつもは結わないが、冒険者として活動するときはお団子にして、前髪もピンでちゃんと止めている。普段の俯いたアーシャとは大違いで、これが意外と同一人物だと気付かれないのだ。むしろ今の姿を見ればどちらかというと姉のリーシャに間違えられることが多いだろう。姉がこんな姿になることはないけれども。

 だからこそ、普段身に着けないローブを手渡すシルヴァさんを訝し気に見たが、彼はそれに苦笑するだけだった。すぐに分かる、と。

 基本的にシルヴァさんのことは全面的に信用する私は疑うこともなく、そのローブを身に着けた。フードを垂らせば、目の前の人物からも容易に私の顔は見え難くなるだろう。

 そんなことをしていれば、やがて入口の方が騒がしくなる。みんながそこを見るように、私も自然と顔を向ければそこにいた人物に身が固まった。

 ローブを着て心から良かったと思う。


「久しぶりだな、デューク」

「シルヴァ、君こそ息災のようだな」


 シルヴァさんとデューク様。この国で有名な二人が揃ったことに、周囲は歓喜の声を上げていた。ギルドの人たちからすれば、彼ら二人が親友であることは周知の事実である。しかし揃って目にすることなど滅多にないことだろう。私だって初めて見た。

 それにしても、なぜ気づかなかったのか。騎士団の依頼なのだから、デューク様と出会うことなど少し考えれば分かったはずだ。騎士団長自らおいでになるとは思わなかったが、シルヴァさんには感謝しなければ。


「あれが、お前の婚約者か」

「なかなかの優良物件だな」


 両隣からの声を無視して、ため息を吐いた。気付けばそれ以外からもチラチラと視線を感じる。

 私がバレリアナ家のアーシャだということはギルドでは隠されたことではない。もちろん逆では私が内緒にしているのを知っているので、ここにいる彼らはそれを他に漏らしたりはしない。ただ、アーシャ=バレリアナがデューク様と婚約しているのは国中が知る事実なので、こうやって冷やかしのような視線を送ってくることは多い。正直辟易する。

 レンとグラムは、私たちの婚約関係が文字通りでないことは伝えているので、これはただのからかいなのだろう。尚更反応する気もなくなるってものね。

 それにしても……

 チラッとデューク様の側に控える騎士に視線を向けた。

 それは騎士団長を護衛するかのように辺りを警戒するように立っている女性だ。決して敵対しているわけではないのだが、騎士からすると冒険者を良く思わない人物が多いのは確かだ。ただそれ以上に、女性として騎士をしていることがまず珍しい。

 騎士団長の側に立てる女性の騎士。ピンク色のショートヘアに女性にしては長身の背丈。それだけの条件で、彼女が誰であるかは一目瞭然だろう。

 アンナ=フルブラッド。

 五大貴族のフルブラッド家の三女でカインの姉。何よりもデューク様に好意を寄せる、本来はデューク様の婚約者となる相手だった。

 私がデューク様と婚約を結んだ時、アンナ様は学院の高等部に上がったばかりだった。私たちの婚約関係にどういう感情を持ったのかは知らないが、それまで魔道士として勉強してきた彼女は、途端に剣を持ちはじめたという。

 そんなアンナ様の奇行に周囲の忠言も無視し、彼女は三年間剣の腕を磨き、見事に学院を卒業と共に騎士団の入団を認められた。騎士団で女性の割合は一割にも満たないし、フルブラッド家は本来魔道士の家系で誰一人武術に嗜む者はいなかった。それなのに、彼女は前代未聞の快挙を成し遂げ、自力でデューク様に近づく権利を与えられたのだ。それほどまでにデューク様を愛していたのだろう。当然それに比例するように、私の評判は落ちる一方だったのはまた別の話だ。

 入団以降もアンナ様はメキメキと実力を伸ばし、更には生まれながらの素質のある魔法を使いこなすこともあり、前例にない魔道騎士の地位を確立させた。そんな彼女を誰もが称え、見事に去年に騎士団副団長の座を手に入れたのだ。

 その執念が私には尊敬できるものだった。それほどまでに強い想いがあったのだろう。ハッキリ言えば他人事にも思えなかったのだ。

 まあ確実に私は嫌われているのは間違いないだろうが。

 デューク様も彼女の話題は私の前で避けていたので、こうしてお目にかかるのは初めてだ。デューク様とアンナ様、やはりお似合いの節がある。

 もしも私がいなくなった後は、きっと今のアンナ様ならデューク様も認めてくれるかもしれない。そう思えたら、私の胸の痞えは一つ降りた気がした。


「さて、具体的な依頼内容を述べさせてもらおう」


 デューク様が透き通った声を響かせた。普段は聞かない真面目な声に、少し驚いた。


「今回の建国祭にあたって目玉のパレードや要人を警護するのは我々騎士団と城の兵士が務める。貴殿たち冒険者については、主に街中の警備をお願いしたい。少数を一組として、街中全てに根を張ってもらいたいのだ。特に不審な人物はすぐに報告してもらいたい」


 街中全てとなれば膨大な範囲だ。そこまで広げる必要があるのだろうか。

 そう思ったのは私だけでなく、他の人たちも疑問の顔を向けた。

 デューク様はそれを見ながら、どこか気まずそうに口を開く。


「特に何もなければそれでいいのだが……、ここ最近城下町にて不審な動きが見られているのだ。恐らくはレジスタンスの輩たちだろう。今回の祭りに乗じて何か行動を起こす可能性も否定できない。もちろんそれだけでなく、外国からの刺客、魔物たちの動きなどもある。外には別の警備が付いているが、万が一という可能性もあるのだ。その全てを我々は潰したいと思っている」


 その言葉にみんなからざわめきの声が聞こえる。

 外国からの刺客や魔物などは、多分そんなに気にしないでもいいだろう。そこまで殺伐とした時代でもないし、魔物たちも街を襲うことはないはずだ。

 みんなが懸念しているのはレジスタンスだ。

 どの時代、どれだけ良い王政を敷こうが、それに反発する者たちは現れる。それがレジスタンスという組織だ。水面下で動いている彼らは規模はとても小さく、普段から何かを起こしているというわけではない。けれど反王国組織であることに間違いはなく、王家や騎士団たちはその実態を探ろうと躍起になっているのだ。

 特に今年は巫女が現れ、歴史も動き出す節目となるだろう。実際そのレジスタンスは、数か月後に問題を起こして巫女が危機に晒される事件に発展したりする。

 決して無視できる存在ではなかった。

 これは気を引き締めないとね。


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