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異界の巫女  作者: ハル
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教師との遭遇

 それから私は気を取り直して、外へと向かった。

 城下町へ抜ければ、そこは予想以上のお祭り騒ぎだった。定期的に上がる花火の轟音に加え、待ち歩く人々の喧騒。メインストリートはパレードの通り道ということもあり、多くの騎士や兵士が並んで警備している。その横の場所を多くの人がすでにマーキングしており、その様は前世で言う某テーマパークを思い出す。

 少し脇の道を通ればそこは商店街で、屋台が数多く出ている。建国祭限定で、特価で販売するものや、普段とは違う品物を売っていたりもしていた。基本的には休日になるので、店を開くかどうかは人々の自由だ。その賑わいは、私がこの世界に生まれてから初めて見るものである。

 本音を言えば、この建国祭を楽しみたい気持ちはあった。ナギとフィデルと店を回ればとても楽しい一日が過ごせるのだろう。現に二人から誘われた時は嬉しかったし行きたい気持ちもあったが、すでにギルドの仕事が入っていたために断念せざるを得なかった。デューク様をダシにすれば、二人はデートだなどと囃し立てていたが、私から言わせれば二人こそデートだと言ってやりたい。まあそんなことを口に出せるわけもないのだが。

 仕事の時間まではもう少しある。少しだけ店を見て行こうか。

 屋台では主に食べ物が多い。前世で言うところのチャーハンや焼きそばのようなものだったり、串焼きものや飴など、普通にお祭りなどの屋台とさして変わらない。

 その中でも私は好物でもある串焼きの店へと向かう。肉や魚、揚げ物、果物などと種類は豊富であったが、ひとまず無難な肉を選択した。


「うん、美味しい」


 学院に入学してからはナギとフィデルと共に商店街巡りはしょっちゅうやっていた。貴族の家で出る高貴な味よりかは、やはり私は庶民的な方が好きだ。

 すぐに食べ終えて、もう一本買おうかと逡巡していると、横から声が掛かった。


「おや?アーシャさんですか?」

「……ッ!ビート先生?」


 振り向けば、そこにいたのは商業学担当のビート先生だった。普段見る教師の服装とは異なり、少しラフな服であったが、やはりそれはビート先生に似合うような地味なものだ。

 危ない危ない。まさか知り合いに見つかるなんて。

 今の私はかなり抑えめだが、貴族の服を着用している。一応ちょっとお高い平民の服とも見えるので、そこまでこの場では浮いてないはずだ。ただし相変わらず髪はボサボサであまり手入れしてない。


「奇遇ですね。貴女も建国祭を回っているのですか?」

「は、はい。先生もですか?」

「えぇ、友人と。アーシャさんは一人ですか?」


 ひとまずビート先生で良かった。

 仮にも貴族の私がこの商店街でウロウロしていたら、何を言われるか分かったものじゃない。ビート先生はそういうことには何も言わないし、普段からナギとフィデルと仲良くしている私を知っているからでもあるだろう。


「いえ、これからナギたちと約束しているんです」

「なるほど。貴女方はとても仲が良いですからね。……それは、もう」


 何だろう。どこか遠い目をする先生が、今授業のことを考えてるのが分かってしまう。

 別に先生に迷惑を掛けたいとは思ってないんだけどな。


「いつも騒がしくてすみません……」

「いえいえ、元気な証拠ですからね。それに私なんかの授業に貴族の方が出席してくれるなんて初めてのことですから」

「そう、ですか……」


 よく分からないが、多分怒ってはないのだろう。

 なんて太っ腹な先生なんだ。

 これを機に、少し話してみようかな。

 なんて私らしからぬことを思って自分でビックリする。ただ、ビート先生にはそう思わせるような雰囲気があるのかもしれない。

 そんなことを思っていたら、ビート先生の背後から誰かが駆けながら声を掛けてきた。


「アリマさん!ここにいたんですか!すぐにどっか離れるのはやめてくだ……ッ!?」


 長身のスラっとした男性は、話の途中で私の顔を見て突然黙った。多分私が一緒だということに驚いたのだろう。聞きなれない名前だったが、どうやらビート先生を指しているようだった。


「申し訳ございません、セイム先生。いい匂いがあちこちからするので、つい」


 恥ずかしそうに笑うビート先生と、その言葉にムッと怒りを見せるセイムと呼ばれた男性。意外な関係に私は目を疑ってしまう。

 私と直接関わりはないが、セイム先生は選択授業の政治学の担当をする先生だ。常に表情が険しく、理知的なのだが眼光も鋭い。見る者に恐怖を浴びせる先生として有名だ。彼の教える政治は、独裁政治なのではないかと密かに心配していたりする。

 そんなセイム先生だが、学院の教師陣の中で一番名が知られていると言っていい。なぜならセイム先生は実は学院長なのではないかという噂が広まっているからだ。

 学院長は存在しているはずなのに、その正体を誰もが知らない。そんな中で確たる証拠と共に浮かび上がったのが、学院長は正体を隠して教師として過ごしているというものだった。それがセイム先生だと噂されるのには時間も掛からなかったのだ。

 セイム先生は貴族であるグランドリア家の一員でありながら、教師をしていることがまず到底なら有り得ないのだ。グランドリア家は五大貴族の次に有力な貴族であり、元々の家系を辿ると宰相であるリナール家縁の家にあたる。更に言えばグランドリア家は学院の建設に関わっているという記録もあるのだ。

 現に彼に対しては他の先生も一歩引きながら接しており、どう見ても威厳を兼ね備えた人物でもある。授業の政治学も大変人気であるらしく、王子たちが満足していたのも記憶に新しい。更にトドメとしては、セイム先生が光属性を持つことにもある。この世界で貴重な光属性を持つセイム先生が、ただの教師であるわけがないのだ。

 本人は肯定も否定しないが、まず間違いなくセイム先生は学院長であろう。

 だからこそ、ハッキリ言って私は彼と近づきたくない。話をしたくないし、気にかけられたくもない。視界に入るのもご遠慮したいのだ。


「そ、それじゃビート先生、私は約束があるので失礼しますね」

「おや、そうなのですか?それは残念だが仕方ないですね」


 今すぐここを離れたい。

 ビート先生に一言告げて、私は踵を返して去ろうとした。もちろんセイム先生のことは視界にいれない。

 後で思えば、それが悪かったのかもしれない。


「君は……あのバレリアナ家の妹か」

「……ッ!」


 まるで人を殺せそうなほどの視線に私の身体は無意識に竦み上がった。

 とつてもなく恐ろしい。


「セイム先生、彼女が怖がっていますので」

「……そうか。それはすまなかった。確か名は……」

「……アーシャ、アーシャ=バレリアナと申します」

「ふむ。アーシャ、アーシャね。覚えたぞ、その名前」


 あぁ、なんか怖そうなフラグが一つ立ちましたよ。

 学院長になんて名前を覚えられたくもないのだけれど。

 もうこれ以上ここにいるのは精神衛生上よろしくない。


「それではこれで……本当に失礼しますね」


 二人のことなど気にも留めず、足早にその場を去った。

 怖いことに、背後から笑い声が聞こえるのは気のせいだろうか。

 うん、気のせいね。そうに違いない。誰が何と言っても。

 振り返ったら最後だ。そのまま私は逃げるように足を速めていった。


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