表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の巫女  作者: ハル
ゲーム本編前
4/56

攻略対象:王子

 さて、私が前世の記憶を思い出してから数日が経った。

 その間私は安静に言われ部屋の中で自由に過ごしている。


「いやいや、こんなの自由なんかじゃないから」


 誰もいないのをいいことに独り言ちるが、心境としては軟禁されている気分である。

 身体に異常はないが、どうやら私は丸一日寝込んでいたらしい。起きたのをメイドさんに発見された後は軽い騒ぎとなったほどだ。

 そのまま医師からはしばらくの間安静するように言われたのだ。

 ちなみにそんな私を見た両親はそれなりの心配をしていたようだったが、目覚めたと分かるとすぐに各々の仕事へと取り掛かっていった。

 ホントに薄情な親である。


「それにしても暇なのよねぇ……」


 6歳の女の子が興味を惹かれるような絵本やら遊び道具はそれなりにある。しかし今の私にとってはそんなものがあるこの部屋にもはや興味を持てないのだ。

 そんなことよりも今すぐにというように私にはやりたいことがあった。いつそれを実行できるかとうずうずするばかりだ。

 とはいえ安静するように言われたのも今日までである。もうしばらくの辛抱だ。


 コンコン


 突然というように、扉をノックする音が響く。


「……誰?」

「失礼します、アーシャ様。お客様がお見えなのですが、お通ししてもよろしいでしょうか」


 入ってきたのは私の世話を仕事とするメイドの一人であった。


「お客……?」

「はい。エルンスト殿下でございます。後はリーシャ様もご一緒に」


 王子様ですって!?何で王子がこんなとこに……と思うが心当たりがないわけでもない。大方先日の一件の謝罪をしにきたということか。

 

 ちなみに私は途中で気を失ったから事の顛末は後で聞いたのだが、ゴロツキどもは無事に助けてくれたアーク様に倒されたが、その後に王様や五大貴族当主の方々より私をのぞくみんなはガッツリ怒られたらしい。特に言いだしっぺの王子はそれはもう王様より怒られたとか。

 街へ出たこともそうだが、ゴロツキに襲われて危なくなったことも、そして私が気絶したことがまた問題だったようだ。


 正直私は会いたくもなかったが、さすがにここまで来ておいて拒絶するわけにもいかないだろう。


「……分かったわ」


 私はなるべく弱気な自分に映るように喋りながら答えた。


「かしこまりました。それではこちらへお通ししますね」


 そして数分と経たずに王子となぜかそれに付き添う姉がやってきた。

 私はその間にベッドへと入り、少しだけ病弱を装った。ちなみにこれに関しては屋敷の者たちに会うときと一緒だ。


「アーシャ。無事だと聞いたが大丈夫か?」


 王子は私を心配するように覗き込んだ。同い年である王子は私と同じくまだ6歳だ。今はまだどちらかというと可愛い容姿をしているが、その中に野生のように秘めた表情も隠している。

 当然の如く、ゲームにおける攻略対象者の一人である。将来は俺様気質のドSキャラだ。まあ今でもその片鱗は見せているけど。


「は、はい。ちょっと怖くて倒れちゃっただけです。迷惑かけて申し訳ありません……」

「いや……その……俺も悪かった……」


 王子は照れながらも何とか謝罪を述べた。

 恐らく父である王様の命令なのだろうが、それなりに悪かったと思っているのだろう。

 普段から私のことをノロマだとか鈍くさいと評していたが、そんな王子が私に向かって謝ったのだ。

 しかし私としては王子に感謝こそすれ、謝ってもらうような覚えはないのだけどね。

 王子が街へ行こうなんて言わなければ私は前世の記憶を思い出さなかったかもしれない。

 もしかしたらそれはそれで別のタイミングで思い出したかもしれないが。

 とにかく私は6歳という時点で記憶を思い出したことについては王子へ感謝しているのだ。けれどもそれだけで、相手は攻略対象である。必要以上には関わりたくはないのが本音だ。


「そんな……!エルンスト様が謝ることなんてありません。私が弱いから倒れただけなので……」

「アーシャ……」


 おいおい。そんな変な目で見つめてくるなよ。私は攻略対象なんぞに興味はないのだ。まして6歳のガキに思うこともない。ていうかあなた散々私のこと馬鹿にしてたよね?


「エルンスト様!もういいじゃないですか。アーシャは安静なんですよ。さ、今日は私の部屋で遊びましょ」


 一瞬でも私のことを見つめていたのが嫌だったのだろう。姉は王子の腕を掴んで、自分の部屋へと連れて行こうとする。

 私にとっても好都合。早く連れ去ってよ。


「あ、あぁ……」


 リーシャが引っ張るとそれにつられるように部屋を後にしようとする二人。

 なのに王子よ。なぜこっちをちょいちょい振り返るのか。

 しかし結局何事も起こらず二人は出ていった。ようやく私は一人になってホッと一息つく。


「それにしても、リーシャは確かおしとやかなキャラだったはずなんだけどなぁ」


 ゲームのリーシャ=バレリアナは主人公のサポートキャラである。

 こちらの世界の都合で突然召喚された主人公を可哀想に思い、甲斐甲斐しく世話を焼き主人公の親友ポジションを確立する。

 しかしそれと同時に実はエルンスト王子の婚約者でもあり、王子ルートの場合は惹かれあう二人を見て文句も言わずに自ら祝福するのだ。嫉妬の心などほとんど見せることはなかった。

 性格も美人で文武両道の才媛のような存在だ。


 正直今の性格からは結びつかないが、まあまだ6歳だしね。これから成長していくと信じよう。

 ちなみに私とアーシャはゲームでは仲は悪いが、今はそこまで仲が悪いわけではない。ただアーシャの優先順位としては私よりも王子のが高いのだと思う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ