小さな罪悪感
シルヴァさんは私にとって兄のような存在だ。
それだけ言えばユアンと似ているが、二人と出会った時はそれぞれ違うからあまり同じようには思っていない。
ただ驚いたことと言えば、私がアークさんたちと会うためにギルドに通っていた時、シルヴァさんは当時若手の冒険者として在籍していた。憧れのアークさんが私に教えているのを見て軽く嫉妬していたというのは、仲良くなってから聞いた話だ。
私の方はあの当時はアークさんたちにしか興味がなかったと言ってもいいくらいなので、当然周りの冒険者はそこまで認識いてなかった。いるとしたらイザベラさんのような、からかってきた大人の人たちだけだ。
今現在、私はシルヴァさんと並んで闘技場までの道を進む。その道中は短いものだが、久しぶりにシルヴァさんとゆっくり話す時間に私は満足していた。
そしてあそこでシルヴァさんと会ったのは実は私を待っていたそうなのだ。
「……アーシャ、この前の戦闘実技の時に模擬戦見に来ていただろう?」
「うん」
「実はな、終わった後イザベラさんに怒られたんだよ」
ああ、なるほど。突然何かと思えば、話は見えてきた。
「……黙ってくれても良かったのに」
「そうだな。でもそれだけアーシャのことが心配だったみたいだ」
「それは有難いけど……」
あの日、私はアークさんの姿をシルヴァさんに重ねて泣いてしまった。
そのことをイザベラさんは必要以上に気にしてくれていたようだ。
シルヴァさんは昔からイザベラさんには逆らえないので、恐らくこってりと嫌味やら何やら言われたのだろう。それで私の様子を見ようと来たみたいだ。
「悪かったな。アークさんのこと思い出させて……」
「何それ。別にシルヴァさんのせいじゃないよ」
「だけど……」
そう。決して彼のせいなんかではない。私がまだ弱いだけの話だ。
それに普段からシルヴァさんの剣は見ているが、いつもならばああも思うことはない。
あの時はちょうど戦ってる相手がルクスだったからだ。
「本当に大丈夫だから。……それより、ルクスのことはどう思った?」
私は話を逸らすようにルクスへと話題を変えた。
アークさんの息子であるルクスの存在は冒険者ギルドの中では周知の事実だ。口には出さないが、シルヴァさんたち教師陣がルクスのことを気にかけているのは知っている。
もちろんルクスはそんなこと知らないだろう。
「ルクスか……」
シルヴァさんにもルクスについては思うことが多いのだろう。まさか憧れの人の子供に教えることが来るとはシルヴァさんも思っていなかったはずだ。
「さすがはアークさんの子だよな。あの剣には確かにアークさんの教えが受け継がれている。ただ、だからこそ勿体ないんだ」
「勿体ない?」
「あぁ。アークさんが亡くなってから、ルクスは一人であの剣を磨いてきたんだろう。型はアークさんの剣筋だが、やはり我流に仕上がってるところがある。それがいまいちあいつの強さを抑えつけてる部分があるんだ。どうにかそれを改善できればいいんだがな……」
なるほど。同じ剣を扱う者として、それは鋭い意見だ。
ただしかし、うちのバレリアナ家の中において階級的には平民であり、まして無属性のルクスに対して剣を教えようなどとは誰もが思わなかっただろう。特にアークさんが亡くなってから今の時期は、ルクスの身体が成長していく時期でもあった。それを我流で学ぶという愚かともいえる時間をルクスに過ごさせてしまったのだ。
それは私もずっと理解していたことでもあった。
「……今からじゃ間に合わないの?」
「アーシャ?」
「シルヴァさんならルクスに教えることが出来るんじゃないのかな?二人ともアークさんの剣を受け継いでいるんだから」
何を勝手なことを言ってるのだろう。
分かっている。これはただの罪滅ぼしだ。
私は今まで自分のことしか考えてきてなかった。ルクスが家でどれだけ辛い想いでいるのか分かっていても、私は自分自身のために彼に見向きもしなかったのだ。
そのことを後悔しているわけではない。自分で決めたことだからこれからもそれを貫くけども、やっぱり私の大好きなアークさんの子であるのは大きな誤算なのだろう。攻略対象の中でも、特別ルクスに関しては幸せになってもらいたいという願いはあった。
……本当に勝手な願いだよね。
「そうだな……。もし、あいつがそれを受け入れてくれるのならそれもいいのかもしれない」
「……それは、難しそうだね」
ルクスは未だに誰に対しても心を開かない。
最近はユキさんに歩み寄ったこともあり、王子たちと一緒にいる時間も増えたようだが、やはりルクスは一人のままだ。
近いうちに、ルクスは無属性から光属性へと転じることになる。
けれどそうなってからでは多分遅いのだ。
今の無属性である時点で、どうか心を開ける人物が現れることを願うばかりだ。
「まあな。だけど今度言ってみることにするよ」
「……うん」
「まったく……そうやって素直になればルクスともいい関係が築けると思うんだけどな」
「無理だよ、もう」
私はもうとことん彼に嫌われている。それはきっとこの先も変わらないだろう。
それほどのことをした自覚はあるのだから仕方がない。
急に悲しくなってきた自分を振り払い、後はひたすらシルヴァさんとの雑談に努めた。




