私の人生計画
結論から言って、ゲーム通り私は内気な少女として育ち、悪役令嬢に利用されて家を追放されることになりました。
何でそうなったかって?
私がこの世界でやりたいことがあったからだ。
それは冒険者。
ゲームの世界は王立学院を舞台にした一年の物語であり、魔王を封印すべく召喚された主人公であったが、肝心の魔王の存在はゲーム中ではほとんど出ない。というか学院の外の状況がほとんど描かれないのだ。
それらが描かれるのは続編からなのだが、当然現実の世界でいえば学院なんてちっぽけなものであり、この世界はどうやら私が思った以上に広いようである。
レヴァリア王国はジェーバニア大陸の中では小国にあたり、その中の王都にある学院などほんのちっぽけなのである。
外の世界を調べればそれは広大で、私はそれにワクワクせずにはいられなかった。
「そこまで前世でファンタジー好きというわけじゃなかったんだけどな……」
前世じゃゲームもライトノベルなんかもほとんど興味を示さなかった。
今こうしてこの世界にとても興味を抱くのは、アーシャとしての興味なのか前世の私としての興味なのかはよく分からない。
けれど実際私は今この世界に興味があるのだ。それはただ知識として知りたいだけではなく、実際に世界を自分の目で見て歩きたいとさえ思うほどに。
そんな自由な者たちこそ、この世界では冒険者と呼ばれるのだ。
言うだけなら簡単だが、実際冒険者は命の危険も多いしそう簡単になれるわけではない。
しかしそれでも冒険者を夢見る若者が後を絶たないのはそこにロマンがあるからだろう。
私は決して男の子のような考えなど持ち合わせてるわけでもないが、冒険者という職業にロマンを抱いているのは確かだ。それは前世の日本でなかった職業だということもあるだろうし、ただただ普通の人生を送ってきた私にとって刺激的だったのかもしれない。
そんなわけで私は冒険者になることを、6歳にして決意した。
思い立ったら善は急げ。18歳には死亡フラグもあるし、今後の人生計画を練らなければならない。
まず冒険者になるためにどうするか。死亡フラグを回避することは最重要であるが、それを除くと思いついたのはまずこのバレリアナ家という面倒くさい貴族の家が邪魔であった。
仮にも自分の家を面倒くさいというのもどうかと思ったが、事実であるのだから仕方がない。
この国はヴァレリア王家の下に五大貴族というものがある。文字通り数ある貴族を束ねる五つの貴族である。
それぞれが内政や外交、武力など一つのことに長けており、王家を古くから支えてきた由緒ある貴族なのだ。他の貴族とは一線を画し、どちらかというと王家に近いともいえるほどだ。
そして私の家であるバレリアナ家もこの五大貴族の一つである。
当然ながら両親はバレリアナ家の一員として心身ともに国のために働いているわけなのだが、私から言わせればハッキリ言って家や子供を省みないただのワーカーホリックである。
愛情や温もりを与えてもらった記憶などほとんどない。6歳の子供を屋敷のメイドたちに任せ、自分たちは仕事漬けの日々。
そんな両親を今の私としては愛せないのも無理はなかろうか。
姉弟に関しても、姉はゲームでのサポートキャラ。正直関わりたくない。
問題は弟である。1歳違う弟は天使だ。そう、弟は天使なのである。大事なことなので二回言った。
とても可憐な容姿をしており、私たちの後をついて来ようとする姿はとても愛くるしい。
正直これまでの私は弟に対してあまり興味を持っていないようであったが、前世の記憶を得た今となっては後悔ばかりだ。あんな天使に興味を持たなかったなんて。
とはいえそんな天使でもあるが、実はゲーム本編では悪役キャラなのである。
将来私を唆す悪役令嬢とはまた別のキャラとして悪役として立ちはだかる。その理由も実はゲーム本編の頃には弟は肥満体質なおデブさんとなっているのだ。
弟も私たちと同じように両親から放任され、それだけでなく私たち姉妹からも構ってもらえない経緯がある。それに拗ねた弟は甘いものに手を出すようになり気づいたら肥満体質になっていった。
更には私たちには二年後に弟と同い年の男の子が養子としてやってくるのだが、その男の子がまあとてもカッコ良く、弟は劣等感を抱いて性格も歪んでしまうのだ。
そして心身歪んだ弟は悪役としてゲームとして登場していくのである。ちなみにその養子の子は攻略対象という始末だ。私に劣らず弟も不幸な人生となるだろう。
弟にも死亡フラグがあるかどうかは分からないが、私は一つだけ決めていることがある。
それは弟の肥満を防ぐこと。
正直ゲームの彼と今の弟がまったくもって結びつかないのであるが、ああにはなって欲しくない。今のままの天使として育ってほしい私のワガママである。これだけはもう譲れない。
というわけで、弟のことを除けば私にバレリアナ家への未練など何もない。弟に関しても肥満にさえならなければいいだけで、どう育とうがそれは自由だとも思ってる。
そしてバレリアナ家と自然と縁を切る方法といえば、それはもうゲームのシナリオ通りの追放しかないだろう。そのためには内気な自分を演じることも、悪役令嬢に手下として使われることも何てことはない。
全てはそう、冒険者へとなるためだ。
私は自分の将来のため、自分自身のためだけにこれから自分を偽って生きよう。
極力攻略対象やゲームの重要キャラには関わらないように生きよう。
そういう風にこれからの人生計画を立てた。
まずはゲームのシナリオが終わるまで。
私の自由な人生はそれからよ。
「よろしくね、アーシャ」
私は自分自身へと語りかけた。