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異界の巫女  作者: ハル
ゲームスタート
27/56

アーシャのストーカー事情2

 4月◇日 木曜日


 午前の共通授業。

 ふとした瞬間に、ユキさんが王子に笑いかけていた。その反応が言葉に詰まっていたようで、満更でもなさそう。そんな二人の様子を姉は笑ってみていた。

 大丈夫なのだろうか。少し不安が過った。

 午後の選択授業は魔術理論である。

 この授業を選択しているのはカイン、ウィラクス、姉、そしてユキさんだ。

 講師は女性でミランダ先生という。彼女もシルヴァ先生と同様に冒険者でありながら、学院の講師を務めている。同じ冒険者同士からか、二人の仲はとても良く、周囲からその関係を邪推されるほどだ。ちなみにAランクの冒険者なので、その実力はとても高い。

 ミランダ先生は眼鏡を掛けていて、見るからに理論に精通しているのを連想される。もちろん講師であるのだから当然であり、むしろそれは想像以上で、その講義の複雑さに音を上げる生徒もちらほらいる。凡人には天才の考えが理解できないということだ。

 しかしその授業内容は分かる人にはとても魅力的であり、あのウィラクスが一番有意義に受けている授業でもあった。もう一度言おう。あの、ウィラクスがだ。

 肝心のユキさんはどちらかというと理解してなさそうであったが、主にウィラクスが彼女に対して親切に教えている場面を多々見かける。あの、ウィラクスが。

 そんなミランダ先生の授業であったが、実は私からすれば全てユアンに学んだ内容なのだ。決して授業内容が簡単なわけではなく、幼い私にそんな高等な理論を教えていたユアンが問題なのだろう。けれどそのおかげで、私は今では魔法に対する知識は高い。師匠様様だ。

 授業が終わると、ユキさんは分からなかったことを姉やウィラクスに質問していた。それに笑顔で答える姉と、なんだかんだ頼られて嬉しそうなウィラクス。カインはまだあまりユキさんとは仲良くないようで、一人先に帰ったようだ。帰り際、私がいる方に一瞬視線を向けてきたが、首を捻ってそのまま帰っていった。

 危ない。さすがは天才魔道士。カインには要注意だ。

 居残り勉強を終えると、ユキさんはやはり真っ直ぐにウィンダリア邸へと帰る。




 4月□日 金曜日


 午前中はいつも通り。

 心なしか、ウィラクスとユキさんの距離が縮まっている気がしないでもない。ただウィラクスは常に王子を優先するので、それがいまいち確かめられない。だけど一方でそれがわざとらしく思うこともあった。

 昼休み。相変わらずディーンがうるさい。

 今日の肉は脂身が乗りすぎて食べきれなかった。

 午後。政治学と淑女学の授業だ。

 この二つは主に貴族向けの授業であり、政治学は男性全員が受けている。もはや貴族としての義務みたいなものだ。

 ユキさんも当然淑女学を受けているし、これには私も受けているので堂々と観察しよう。

 淑女学は主にマナーなど、教養の授業内容だ。やっぱり貴族の女性向けなので、平民の人たちは基本的に受けない。

 講師であるミスジーン先生は年齢的には教師陣でも一番高く、前世でいえばそろそろ定年に差し掛かる頃だろう。そしてその界隈では有名なのだが、とにかく、厳しい。彼女も一応貴族であるのだが、上の立場である五大貴族や王家など関係なしにこの授業に関しては厳しいのだ。何かミスをすればすぐに指摘しやり直させる。とても嫌らしい先生だ。

 そんなミスジーン先生に当然ながら私は目を付けられている。まずこのみすぼらしい姿をどうにかしろなど、姿勢をもっと正しくしろなど、毎回姑のように注意されるのだ。言われるのを分かっていて直さない私も私なのだが。

 ただしそれは去年までで、今年からその標的はユキさんへと移っていった。ついこの間まではただ女子中学生だった彼女がマナーなど知るわけもない。一応ウィンダリア家で学んでいるらしいが、そうそう身に着くものでもない。事あるごとにミスジーン先生はユキさんに注意していた。ウィンダリア家縁の者であろうとその姿勢を崩さない先生には正直好感を覚えたりもする。噂では現王妃にも、それはもう酷な教えをしたとかしてないとか。

 もし私がいきなりこんな世界に来てマナーを無理矢理教えられ、挙句失態を犯す度に注意されては人格が破綻してもおかしくない。それなのに、ユキさんは注意される度に泣きそうになりながらも、決して下を向くことだけはしなかった。

 どうしてそこまで出来るのだろう。ただただこの世界に召喚されただけで、ユキさんにとって関係ないこの世界を救う義務などあるわけがない。

 ゲームのシナリオだから?彼女の意思はどこにあるのだろうか。ふとそんなことが気になってしまった。

 授業が終わるとユキさんは姉と談笑していた。あれだけ怒られていたのに、笑っていられるのも凄い。今日はそのまま帰るようだが、明日に出かける予定を立てたようだ。初めての寄り道デートは姉とらしい。

 余談だが、ゲーム内には当然友情エンドというのも存在する。




 4月☆日 土曜日


 午前中。四人の仲は良好。

 昼休み。みんなの仲は良好。

 午後。商業学の授業があったが、ユキさんのストーカーのために欠席した。休むことだけをナギとフィデルに告げたら、激しく罵られた。私がいないとつまらないって。嬉しいけど何だか複雑だ。

 授業を欠席した私はユキさんと姉が一緒に出掛けた後を追った。どうやら二人は城下町で買い物でもするようだ。女の子同士で出かけてる姿はとても微笑ましいが、姉は城下町に詳しいわけもなかった。二人そろって行き当たりばったりに進んでいるようだ。そんな二人の後をつけているのは私だけではなく、学院内でも気配が見えるウィンダリア家のお付きの者や、王国の兵士や、バレリアナ家の私兵までいた。

 揃いも揃って……。自分のことを棚に上げながらため息を吐く。

 迷いながらも順調に買い物を進めていく二人だったが、気になる話が耳に入った。攻略対象の好感度だ。

 現実には好感度なんてものは存在しないが、要はユキさんが誰を気に入ってるかという話だ。その話題を振った姉にナイスと言いたい。

 しかしユキさんの答えは概ねみんな平等な意見であった。唯一ルクスの印象が悪いくらいか。あんな態度じゃ当たり前だけど、これはどうにかしないと。ルクス推しの私としてはこの話はいただけない。

 さて、そんな女の子特有の恋バナをしている二人の間に近づく輩が数人。見るからに悪人面だ。武道の嗜みは二人にはないが、姉には魔法がある。本気を出せばあんな輩は撃退できるだろうが、仮にも淑女である姉はそう簡単に魔法を発動することに抵抗があるようだ。

 だんだんと緊迫していく彼らの間に、私以外の何人かの追跡者が近づいて行った。そして颯爽と撃退すると、自分たちがつけられていたことを知る二人。姉は薄々と感じていただろうが、ユキさんはそのことに大そう驚いていた。未だに自分が重要人物であることを分かっていない様子だ。ウィンダリア家に心配をかけていたことを深く詫びながら、今日はお開きとなった。

 とりあえずユキさんと姉の関係が一番進んでいるようだ。二人が親友に発展していくのは良いことなのだが、後で王子を巡って泥沼の争いにはならないでね。




 4月◎日 日曜日


 本日は休日。

 先週は遊び耽っていたらカタリナに怒られたので、今日は嫌味のように朝一に起きてウィンダリア邸の近くまで足を運んだ。さすがにこれ以上近づくのは危険な気がする。

 ウィンダリア邸を見張ること数時間、やっとお目当てのユキさんが現れた。すでに昨日のうちに今日は城内に招待されていることは承知していた。馬車に乗っていくユキさんの後を付かず離れず追いかけていく。

 ゲームでは休日には自己鍛錬と、攻略対象とデートと選べる。エンディングへ持っていくには自己パラメータもそれなりに必要であり、鍛錬をサボると攻略対象からの信頼度が下がるのだ。

 今日は王子からの誘いがあったようで、ユキさんは城へと向かっていってる。

 王子め、何のつもりだ。

 やはり主人公が現れたことにより、姉への関心が薄れているのだろうか。そうは言っても学院内でみる二人は夫婦のような雰囲気を見せたりもする。どうなっているのか全然分からない。要観察だ。

 やがて馬車がレヴァリア城へ着くと、ユキさんは城内へと入っていく。

 さてどうするか。

 さすがに城の中となると警備も厳しい。ここで退くのは簡単だが、カタリナの顔を思い浮かべるとそれも何だか釈然としない。それにウィンダリア家は恐ろしい気配がするのだが、このレヴァリア城からはどちらかというと緩い空気しか感じない。ぶっちゃけ忍び込むのは簡単そうだ。

 少しだけ思考したが、カタリナに物言わせないためにも私はこの先に進むことを決意した。

 気配を消して城の外から風魔法で浮遊して二階へと辿り着く。それからとある窓からユキさんの姿を発見した。

 おい、どうなってんだ。王子の部屋じゃないか。

 今すぐにでも王子に殴り込みに行きたかったが、幸いとそこにいたのは王子とユキさんだけではなかった。というか全員そこにいた。

 ウィラクス、姉、ディーン、カイン、ルクス、ヨハン。

 ルクス!?

 思わず二度見してしまった。まさかルクスまでいるとは。大方ヨハンと姉に連れられたのだろう。王子の部屋だろうとお構いなしに不機嫌なオーラを醸し出している。それを睨んでいるのはいつもの如くウィラクスだ。

 とりあえず王子とのデートではないようだったので良しとしよう。何を話しているのかは聞こえないが、少なくとも一部を除いて仲良く談笑しているようだ。着実にだが、好感度は育んでいるといっていいだろう。

 彼らの会合が終わるまで数時間。私は城壁の外でただただ待ち続けていた。

 何て寂しい一日なのだろう。

 そうして休日は更けていった。


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