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異界の巫女  作者: ハル
ゲーム本編前
15/56

攻略対象:宰相子息

 リナール家もバレリアナ家同様五大貴族の一つであり、バレリアナ家と同じくレヴァリア王国の内政を担当している。

 ウィラクス=リナールの父親は現在王国の宰相を務め、リナール家は代々それを世襲で引き継いでいる。ウィラクスも将来は宰相への道を歩むのだ。

 またウィラクスとエルンスト王子は親友の間柄であり、ウィラクスは立場的な意味もあってかエルンスト至上主義としても有名だ。何かがあっても自分を蔑ろにしてもエルンストを大切にする。それが彼にとっての今までの人生であり、そしてこれからの人生でもあるのだ。

 そんな自分を犠牲にするウィラクスにもっと自分を大切にしてほしいと説くのがゲームの主人公である。当然最初はそれを無碍にするがだんだん主人公に絆されていき、やがてウィラクスの中ではエルンストよりも主人公が大切な存在になっていく。その事実が彼にとっても葛藤となり悩んでいく、というのがウィラクスルートのあらすじだ。

 もはや王道といってもいいだろう。ちなみにだが、ウィラクスルートの悪役令嬢は当然婚約者であるカタリナ令嬢だ。


「何やら言い争っているのかと思えば、まさかカタリナ嬢であったとは……」

「ウィ、ウィラクス様……あの、これは……」


 目線が鋭い彼は何も知らない者からすれば畏怖の対象にもなる。ただ見られるだけで縮こまってしまうものだ。


「分かってると思いますが、貴女は我がリナール家の婚約者となるのですよ。それに伴う品位は持っていただきたいものですね」

「申し訳ございません……」


 ウィラクスのただならぬ雰囲気にカタリナはそれ以上押し黙ってしまう。もちろん私もそれに倣って口を閉ざしていた。そんな私をウィラクスは見ると、一瞬だけ驚いたような顔をした。


「貴女は……まさかアーシャですか?」

「は、はい……。お久しぶりでございます、ウィラクス様」

「そうですね。貴女が屋敷に籠って以来ですね」


 ウィラクスも、アークさんに助けられたあの事件の時に一緒に遊んでいた仲間だった。ウィラクスだけでなく、あの時に遊んでいたのは皆王子と五大貴族の面々だけであったのだ。


「あの時はご心配をお掛けして申し訳ございませんでした……」

「……全くその通りです。貴女のおかげで王子がどれだけ自分を責めて悩んでいたか……貴女さえいなければ王子はもっと幸せになれたかもしれないのに……」


 え?今、何て言ったの?さらっと病んだ発言をするウィラクスに私は思わず目を点にしてしまった。


「失礼。今のは言い過ぎでしたね。とりあえず貴女も今後はエルンスト様やリーシャに迷惑を掛けないことですね。ただでさえ五大貴族史上の出来損ないなのですから」

「え……」

「聞こえなかったのですか?どうやら耳まで悪いようですね……」


 なっ……何なの、こいつは!!

 人を出来損ないなどなんだの、本人を目の前にして言うか普通!?私があんたに何をしたって言うのよ!だいたいあんたは腹黒だけども、対面は紳士キャラで通ってるはずじゃないの!?なのにこれでも一応レディの私に対してそんな存在を否定するような言葉を並べるなんて、本当にどういうつもり!?


「それとも本当のことで何も言い返せないのですか?」

「……ッ!」


 何も反応できない私を馬鹿にするように嘲笑うウィラクス。

 今すぐに殴りたい。

 そう思った私は間違ってないし、それを堪えた自分を褒めてやりたいくらいだ。

 けれど今この場で本性をさらけ出すわけにはいかない。グッと堪えて私は下を向いた。それは大人しそうなアーシャを演じるためであり、そして怒りの顔を見せないためでもあった。

 覚えてな、ウィラクス。いつかお前にはギャフンと言わせてやる!……古いか。


「……カタリナ嬢。貴女も付き合う相手は選んでください。リナール家の品格を落とすようなことだけは許しません」

「……ハッ、ハイ!申し訳ございません、ウィラクス様……」


 さすがのカタリナもウィラクスの黒い一面を見て恐怖を感じているようだった。冷や汗をかきながら緊張している。

 こんな男の婚約者だなんて、この娘もかわいそうね。しかも本命は王子だし。

 

「分かればいいのです。……もうまもなく、エルンスト様や私たちの婚約発表がなされます。貴女も準備なさい」


 ウィラクスはカタリナにそう告げ、もはや興味もなくしたように踵を返していく。

 その後に一瞬だけ沈黙が訪れるが、やがてカタリナがため息を一つ零す。


「……恐ろしいお方ですわ」

「えぇ……私怖くて何も言えなかったですわ」


 二人はお互いの顔を見合わせ、そして私のことを無視して歩き出した。

 どうやらウィラクスの言葉に従ったのだと思われる。だけど、私ってこの世界では本当にそんな存在なの?

 余りにかわいそうよ、アーシャ。



「さて、紳士淑女のみなさん。ここで本日のメインイベントの発表があります!」


 どこぞの司会みたいにそう口に出したのは狸親父……みたいな小太りの男。我らが王国の宰相様である。それはもちろん、当然ウィラクスの父親でもある。

 なぜあんな狸みたいなのからウィラクスのような美形が生まれたのかは本当に謎だ。見たことはないが、恐らく母親似なのだろう。


「すでに噂は飛び交っていると思うが、今夜は三組の婚約発表をさせてもらおう!そのうちの二組は君たちの年代同士の婚約だ」


 会場に響き渡る声に、それまで談笑していた者たちは揃って宰相の方へ耳を傾けた。それもそうだろ。今夜が私たちの年代の初の夜会といっても、誰もがこの婚約発表を期待していたのだから。

 それにしても三組か……。そのうちの二組はリーシャとエルンスト王子、ウィラクスとカタリナで決定だ。それじゃ後一組は誰なのか。少なくともゲームに出てくる婚約関係はその二組だけなので、後は知らない人たちなのだろう。私には関係ない話だ。


「では早速だが、我らがレヴァリア王国の繁栄をもたらす婚約となるだろう!殿下のエルンスト王子とバレリアナ家のリーシャ嬢だ!!」


 その瞬間、会場中に大きな歓声が響いた。

 その声は全てが二人を祝福しているもので、さすがの私もその熱気には充てられる。


「行こうか、リーシャ」


 名を呼ばれた王子はリーシャをエスコートして壇上へと上がっていく。その様は優雅で、そして二人は幸せそうに微笑みあっていた。

 やがて二人は宰相の隣へと辿り着き、会場の皆を見渡して一礼する。

 またしても大歓声の声が二人を浴びせた。


「エルンスト様、おめでとうございます。どうかご幸せに」

「ありがとう。だがその言葉は少し早いんじゃないか?」


 宰相の言葉に王子は恥ずかしげにしていた。けれどその顔は嬉しそうだ。

 とりあえず二人は幸せそうだが、この先主人公が現れればいったいどうなるのだろう。必ずしも王子ルートに突入するわけじゃないから何ともいえないが、やはりそれは避けてほしい。関わりは持とうと思わないが、リーシャはやっぱり私の姉でもある。出来れば幸せになってもらいたいものだ。


「次は二組目を紹介する。こちらもすでにご存知の方も多いだろう。不肖ながら我が息子のウィラクスとマッカーサ家のカタリナ嬢だ!」


 王子とリーシャほどでもないが、それでも大きな歓声が再び響き渡る。

 その歓声に包まれながら二人もまた壇上へと上がっていった。


「リナール家の誇りを持ってカタリナ嬢を幸せにするんだぞ、ウィラクス」

「もちろんです、父上」


 さっき見た威圧的な鋭い視線はかけらもなく、ウィラクスは穏やかな顔でカタリナを見た。何も知らない者から見たらそれはまさしく慈愛の視線となるのだろう。

 うすら寒いわ。何よあれ、さっきの態度はいったいどこに!?

 私の疑問は当然だろう。カタリナでさえ、ウィラクスの本性を知っているはずなのに今はうっとりとしている。

 何だか無性に腹が立つ。


「さて……最後は三組目の発表だ」


 さっきまでとは打って変わって、会場はざわめきが支配していた。

 どういうことだろう。知らないのはどうやら私だけではないということか。誰もがいったい誰のことなのかと囁きあっている。それは壇上に立つ婚約発表された四人も例外ではなく、宰相だけが何かを知っているような顔だった。しかしそれなのに宰相の顔はあまり浮かばれない。

それはまるで不本意な婚約発表だとでも言うように。


「一人は君たちの中からだが、その相手は別にいる。……入れ!」


 宰相の言葉と共に会場の扉が開いて現れたのは男性だった。

 え……?


「嘘でしょ……?」

「あれっておい……!」


 周囲からもどよめきの声が上がる。私もまた別の意味で混乱していた。なぜならその男性は先ほど私をエスコートしてくれた相手だったからだ。


「デューク!?」


 まっさきに大声でその名を呼んだのはエルンスト王子だった。

 その名を呼ばれたデュークは爽やかな笑みを王子へと返し、まっすぐに宰相たちのもとへと向かう。そしてすれ違いざまに私と彼の視線が交錯した……気がした。


 デューク。その名前を私は知っている。


 彼はそのまま宰相の隣へと立つ。それを待った宰相は観念したかのように最後の発表をした。


「デューク=アーザイク。彼と婚約を結ぶのは……バレリアナ家のアーシャ嬢だ!」


 嘘。嘘。有り得ない!?


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