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異界の巫女  作者: ハル
ゲーム本編前
13/56

時は経ち、

お久しぶりです。

時間が空いたので、若干矛盾するようなとこもあるかもしれません。。

 あれから時が過ぎ、私は13歳になった。



 この五年間、私はほとんどの時を部屋で過ごしていた。もはや完全な引きこもりだ。

 あれ以来ギルドへも一度も行かず、本当に家から出ることもなかった。家族ともほとんど会わず、そんな私を家の執事やらメイドも腫れ物のように扱うばかりだ。もはや私だけがこの家の異質として認められつつある。

 ちなみに時折メイドたちの噂から聞くとこによれば、相変わらず両親は仕事漬けの日々を送り、姉は教養やマナーを身に着けながらも王子たちと交流を持ち続け、弟はなぜだかルクスに懐き行動を共にすることが多いようだった。ちなみにだが甘いものは絶ったようで、五年経った今も相変わらず天使のような姿だ。

 そしてルクスはやはり私とは別の意味でこの家から爪はじきにされているようだ。当主からは疎まれ、メイドたちからは敬遠されている。リーシャやヨハンとはそれなりに話すようであったが、肝心のルクスは未だに心を誰にも開かないらしい。それでも一緒にいるヨハンには脱帽するばかりだ。私なら絶対耐えられない。


「お嬢様、何か考え事でもしているのですか?」


 ふと、声を掛けられて我に返る。


「いいえ……」


 目の前にある姿見を見れば、私とは別人の姿が映されていた。

 初めて着る新品のドレス。今となっては私の暗い性格に合うような黒いドレスだ。そしてこの世界では初めてする化粧。普段の私とは程遠い。


 今夜、私は社交界デビューをすることになるのだ。


 この世界では13歳から一種の区切りとして貴族は社交界デビューをする決まりがある。そしてそれと同時に遂に王立学院へ入学する年にもなる。

 社交界デビューは今夜となり、王城にて開催される。初めての夜会はもはや貴族の義務となりつつあり、今まで引きこもっていた私も当然参加しなければいけない。

 本当に憂鬱でしかない。


「そうでしょうか?今夜の夜会に参加したくないと顔に書いておられますよ」

「……ふぅ、ルーナには何でも分かるのよね……」


 今となっては私に付くメイドはルーナ一人だけだ。去年からこの家へ奉公しにやってきて以来、なぜか姉のリーシャよりも私を気に入ってくれたようでこうして世話をしてくれている。そもそも前世を持つ私としては世話をしてもらうこと自体必要もないと思っているのだが、そこだけはさすがの両親も許してくれはしなかった。


「勿論です。まだ短い付き合いですが、お嬢様のことはこの家の誰よりも知っていると自負しております」

「……そうね。きっと本当にその通りだと思うわ」


 それは誇張でも何でもない。それくらいに家の者たちはもう私には関心もなく、私としてもそれで良いと思ってるほどだ。


「それにしても、どうにか今夜は不参加出来ないかしら」

「お気持ちは分かりますが、お嬢様の世代にとっては初めての夜会となります。ここで不参加となっては周りからの目も更に悪くなってしまいますよ。……それに今夜はリーシャ様とエルンスト様の正式な婚約発表もされるとか」

「さすが耳が早いわね。だからこそ、尚更憂鬱なんじゃない」


 姉と王子の婚約自体は幼少の頃より交わされていたが、今夜を期にどうやら正式に国内へと発表されるらしいのだ。もはや今さらとしか思えないし、二人の関係を見れば周知の事実でしかないのに。そんな体裁など気にするところが貴族のしがらみだと私は思う。


「まったく……早く自由になりたいものだわ……」

「……?何か仰りましたか?」

「いいえ、何でもないわ」


 独り言のように呟いた言葉がルーナに聞こえたかと一瞬慌てたが、どうやら聞こえてはいなかったようだ。

 危ない危ない。いくらルーナでも私の計画を知られるわけにはいかないからね。


「さぁお嬢様、終わりましたよ」


 改めて姿見を見れば、そこはもはや本当に別人でしかない。ドレスはもちろんのこと、髪型もしっかりと結われて普段の前髪を長くしている私とは程遠い。


「見違えるようだわ……私にはもったいないくらい」

「そんなことありませんわ。お嬢様があまり関心がないだけで、元はとても綺麗ですもの。これを機に少しくらいはお洒落にも気を使ってくれたらいいのですけど……」


 私のことを心配して言ってくれているのだろうが、生憎と私はそこまでお洒落や外見に興味もなかった。それは前世からなので、きっとこれからも変わらないだろう。

 とはいえ、ルーナは私が周囲から見下されているのが我慢できないのだろう。たまにだが、こうやって愚痴を漏らしたりもしていた。少しだけ申し訳なく思う。


「それじゃあ行ってくるわ。ありがとう、ルーナ」

「……本当に私も着いて行かなくて良いのですか?」

「えぇ。どうせ城内には入れないのだから、待つだけ無駄でしょう。今夜はゆっくりと休みなさい」

「……私は別に苦でも無駄でもないのですが……」

「無理に言わなくても大丈夫よ。貴女の気持ちは分かっているから」

「…………かしこまりました。いってらっしゃいませ、お嬢様」


 どこか不満そうな顔を残しつつもルーナは私を見送ってくれた。

 なぜだろう。私なら半休が貰えたみたいで大喜びなんだけどな。







 王城へは馬車を用いて向かう。すでに家の前に待機しているはずなので、私は部屋を出て玄関へと向かった。

 それにしても家から出るのも数年ぶりね。本当に何でこんなにも引きこもっていたのか自分でも少し謎だ。


 五年前のアークさんたちの事件は私の心を苦しめた。当時は本当に毎日泣きはらして食事すらまともに取ることも出来なかった。それでも時が経てば人間思い出が風化していくもので、いつしか泣くことも出来なくなった。それがまた、私自身を苦しめていたのも確かだ。

 今となってはそれなりに心は整理出来ているものの、やはり何かに行動する気にはあまりなれなかった。そうは言っても、別にこの五年間廃人生活をしていたわけではない。アークさんたちから教えてもらったことを無駄にしないためにも、私が最初に描いた計画に変わりはない。この五年間毎日魔法の練習だけは欠かさなかった。

 けれども時々考えてしまう。本当にアークさんたちが死んでしまったのがゲームの運命だとするならば、私が魔物に襲われて死んでしまうのも避けられない運命なのではないかと。そう考えるだけで恐怖が私を襲うが、その度に私はユアンからもらったお守りを感じる。大丈夫だ、とそう言ってくれている気がするから。だから私はゲームの運命なんかには絶対負けない。

 ――そう自分自身に言い聞かせた。


 今夜のパーティーでリーシャと王子の婚約発表がされ、更に来月からは学院へと通うことになる。ゲームの前舞台は更に整っていくことになるだろう。そう思うと、少しだけ憂鬱になった。


「あら、遅かったわね、アーシャ」

「お姉様……?それに……」


 ようやく玄関の方に辿り着いたところで姉のリーシャから声が掛けられた。その声に顔を上げるとその隣にはルクスとヨハンもいた。

 ルクスの顔を見た瞬間、私の気は張り詰める。一瞬だけルクスと視線が交差するが、私はすぐにそれをそらして俯いてしまった。


「アーシャ姉様!お元気そうで何よりです」


 そんな私の様子に気づいていないように、ヨハン――いや、天使が――じゃなくてヨハンが声を掛けてくる。久しぶりに会う私を気遣ってくれるその姿に普段なら癒されるだろうが、それよりもルクスの視線の方が遥かに痛い。というかもう、本当にルクスに対しては後ろめたくてしょうがない。

 実はまだルクスとは全くといっていいほど喋ってないのだ。ルクスに取った失礼な態度すら未だに謝れていない。

 だって考えてもみて?あんな人を殺しそうな視線を向けられて、何を喋れって言うの?本当に私を殺したいんじゃないかってくらい絶対零度の視線と態度を前に、私の口が閉じるのを理解してほしい。そして一度機会を失えばそれはずるずると続いていくものだ。

 結果、何もできずに五年も経ってしまった。もはやこの先も謝ることすら出来ない気がする。


「……久しぶりね、ヨハン。それに……ルクスも」

「あぁ……」


 久しぶりの挨拶を交わすが、帰ってきたのはそっけない返事だ。久しぶりに聞いた声は記憶よりも低く、すでに声変わりがしたのだろう。まだ12歳のはずだが、背もヨハンより頭一つ分は高く、どうやら成長は早いようだ。さすがに筋肉はまだあまりないようだが、更に五年後のゲーム本編となれば程よい筋肉も着いたイケメンに成長するのだろう。不愛想だけは変わらないが。

 それにしても……やはり親子なのだろう。すでにアークさんの面影がルクスに重なっていた。きっとそれも父親がルクスを嫌う要因の一つなのだと思う。私は尚更ルクスを直視出来なくなりつつある。


「それにしても、アーシャ姉様。見違えるほどに美しくなりましたね」

「……そうかしら?そう言ってもらえたら私も嬉しいわ」

「はい!ルクスだってそう思うよね?」


 えええ?この子ったら何そんな話をルクスに振ってるのよ。そんな風に聞かれたら絶対答え辛いじゃない。それともルクスならこの場でもバッサリと切ってくるかしら?


「……まぁ……そうだな」

「え……?」


 幻聴かと思った。今、何て言った?

 顔を上げてルクスを見れば、彼はそっぽを向くように横を向いていた。気のせいかもしれないが、その顔は少し赤味を帯びている気がする。

 うん……気のせいに決まってるわね。きっと今のも幻聴なんだと思う。夜会に行きたくないからってここまで疲れてるのかな。


「ふふ。さすがはアーシャね。私の妹だわ」

「……お姉様?」

「何でもないわ。さぁ、馬車が待ってるわよ。早く行きましょう」

「はい……」


 そして私は姉に続くように家を出た。

 途中でルクスの横を通ったが、彼はやはり私に視線を一つも寄越さなかった。



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