攻略対象:義弟
その後家に帰ると、父親からこっぴどく怒られた。
どこに行ってただの、大事な話の最中にだの。
普段は私たちのことを放置してるくせにこういう時だけうるさいのね。
一通り怒られれば解放され、すぐに父は仕事へと戻った。結局話というのはルクスのことだけだったのだろう。
正直私は今は何もする気が起きない。
部屋に帰って寝よう。
「あ……」
道中、ルクスに出会ってしまった。
私は思わず立ち止まる。何でこんなとこで、とも思ったがこれから一緒の屋敷に住むのだ。こういうことも増えるかもしれない。
「……」
ルクスは無言でこちらを見ていた。表情も乏しく、何を思っているかがよく分からない。
不気味だ。
「あの……」
「……」
改めてルクスを観察してみた。
一つ下なので彼は今7歳のはず。髪は灰色でこの世界ではとても珍しい色をしている。それが無属性故なのかは分からないが、実は光属性に目覚めると美しい銀髪に変わるのだ。
それは正真正銘タルナルダ王家の証となるのだが、今ではそれを知るのもきっと私だけだろう。ルクス本人ですら、シャリーさんが王家の人間だなんて知らないはず。むしろ父親のアークさんが貴族だったことすら知らなかっただろう。いきなり連れてこられた貴族の家にルクスは不満をありありと見せていた。
今日から義弟となるルクス。だけど私は仲良くなんて出来る気がしない。ルクスを見れば見るほどアークさんとシャリーさんを思い出してしまうから。
私が彼の両親を、彼の環境を奪ってしまった。
ルクスを見るたびに、そう思い知らされている気がしてならない。
「お前……」
そこで初めてルクスが口を開いた。
想像以上の無機質な声に、わずかに身体が震える。
きっと彼はこの数日で、バレリアナ家の人たちにいいように転がされていたのだろう。
「……何?」
「いや……何でもない」
今思い返せば、私はルクスの目の前で拒絶したのだった。
無理矢理連れてこられた場所で、義姉となる人間に拒絶されてどう思ったのか。
悲しんだ?恨んだ?怒った?
少なくともルクスの視線は私を責めているように感じられた。
謝らないとね……
「あの……」
「……」
私が再び話し掛けようとすると、今度はルクスがまた無言で睨んできた。
やっぱり怒ってるよね。
子供といえど、この視線は正直とても怖い。自分の罪悪感が尚更そう感じるのかもしれない。
「二人とも、何やってるの?」
私が何も言えずにいると、突然割って入る声が聞こえた。
「姉様、ヨハン……」
珍しい。二人が一緒にいるなんて。
私たちに近づいてくる二人。これで姉弟四人揃ってしまった。
こんなこと二度とないかもしれないくらいに珍しい気がする。
「アーシャ姉様、ルクスを苛めちゃダメですよ!」
ヨハンの目にどう映ったのか分からないが、どうやら私は怒られたようだ。
いやまあ、拒絶した前科があるから何も言い返せないけども。だけど私の天使であるヨハンに怒られるのは少し堪えるものがあった。
「ダメよ、ヨハン。そんなこと決めつけちゃ」
「リーシャ姉様……」
「だけど誤解される二人も悪いわよ。そんなとこで睨み合ってちゃ誰だってそう思うわ」
訂正して欲しい。
睨み合ってるのではなくて、睨まれているのよ。
「それにしてもアーシャがあんな行動取るなんて珍しいわね。よっぽど弟ができるのが嫌だったの?」
「ちがっ……」
「そうなの?アーシャ姉様」
否定しようとしたが、完全に言葉を紡ぐことが出来なかった。
嫌だったと言われれば、そうだったからだ。
私が何も言わないのをいいことに、リーシャもヨハンもいいように誤解していく。だからと言って私も本当のことを話せないので、もはや何も口を挟むことをしなかった。
「ふん……馬鹿馬鹿しい」
「あ……」
取り残されていたルクスが、さも下らんというように口を開く。私たちのことを馬鹿にしたような目で見た後、そのまま振り返ることなく歩き出した。
「……カッコいいなぁ」
「え!?」
唐突なヨハンの言葉に私とリーシャは揃って口を揃えてしまった。
この子は何て言った?
「ちょっとヨハン、何冗談言ってるの」
「えー、だっカッコいいじゃん」
そりゃまあ将来は攻略対象なのだ。とつてもない美形に育つのは間違いないが……。
今はあんな無表情な子供だ。決してそんな感情は持たないはず。
「そうかしら?エルンスト様の方が何倍もカッコいいわよ」
「ルクスのが絶対カッコいいよ!剣だって出来るんだって。エルンスト様はまだ出来ないよね」
「ヨハン、あんた喧嘩売ってるの?エルンスト様は王子なのよ。戦う必要なんてないわ」
「じゃあルクスの方が強いって認めるんだね」
「そんなわけないでしょ!」
何こいつら。急に王子とルクスの褒め合いになったんだけど。
そしてヨハン。あなたはルクスに劣等感を感じるんじゃないの?
なんだかいろいろと大丈夫かしら……
ルクスにも謝り損ねちゃったし、また今度謝らないと。
だけど……正直顔も合わせたくない。
ホントにいったいどうなることやら




