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異界の巫女  作者: ハル
ゲーム本編前
11/56

絶望と決意

 それから数日の間、私の心は不安だけが過っていた。

 三人が無事に任務を終えたのならば、きっとユアンがまたメッセージを送ってくれるはず。

 それを今か今かと待ちながら、毎日を過ごした。

 けれどそれは一向に訪れない。


「どうして……約束したじゃない……」


 毎日枕を涙で濡らしながら、食事もまともに喉を通らない。

 そんな日が続いたある日、事件は起きた。


「お嬢様、旦那様がみなさまに大事なお話があるとのことです」


 メイドから突然呼び出された。

 その時点で私の中では嫌な予感しかしない。

 呼び出された部屋へ行くと、そこには姉も弟も一緒だった。珍しく両親もいて、家族全員が揃っていた。


「お前たちに重大な話がある」

「……」

「突然だが、兄弟が一人増えることになる」


 あぁ……。今にも倒れそうになる。

 これが実は母のお腹に新しい命が宿った、なんていう素敵なことならどれだけ良かっただろうか。


「さぁ、入れ」


 父の一言で現れたのは、一人の男の子だった。無表情な面構えをしており、こちらへ敵意をむき出しにしているのが分かる。


「名はルクスだ。昔この家を出た不肖の弟の息子だ。お前たちとっては従兄弟にあたるが、その弟がどうやら亡くなったようで我が家で引き取ることになった」


 お願いよ。誰か嘘だと言って。


「ふーん、弟ねぇ……お父様、私はそんなの初耳なんですけど」

「我が家とは縁を切っていたからな。ルクスの引き取り手がいなかったからうちまで来ただけだ。……でなければこんな庶民で生まれ育ったものを引き取るわけがない」


 違う。違う。違う。


「……でもお兄ちゃんかぁ。僕憧れてたから嬉しいな」

「言っとくが、ヨハンとは同い年にあたるからな。純貴族の者として恥じることのないように」


 どうして!約束したじゃない!ねぇ……!!


「アーシャ、何を突っ立っている。話を聞いていたのか」

「嘘よ!!」

「アーシャ……?」


 耐え切れない。こんなのが現実だなんて、私には無理……!


「おい、アーシャ!?どこへいく!」


 現実を逃避するように私は走った。

 ルクス?そんなもの知らない。

 私が待っていた人は彼じゃない。


 私は一目散に走り、城下町を出て冒険者ギルドまで辿り着いた。

 勢いよく扉を開け中へ入ると、そこは人で溢れかえっているのにまるで通夜のような雰囲気を醸し出している。


「アーシャ……!?」


 突然現れた私を見て驚くマスター。

 それはいきなり入ってきたのもあるだろうが、今来ている服は明らかに貴族が着る高価なものであったのもあるだろう。


「アークさんは!?シャリーさんは!?ユアンは!?」

「……もうお前の耳にも届いたのか……」


 普段豪快に笑うマスターからはほど遠い声だった。


「嘘よ……だって約束したもの……三人は帰ってくる……!」

「アーシャ、よく聞け。……ブルスターグ山でアークとシャリーの遺体が発見された。ユアンのものは見つかってないが、状況的にはもう……」

「嘘だ!!ねぇみんな、何かの冗談よね……?」


 周りを見渡しても、誰も何も言わない。この場に見慣れた冒険者も職員も何人もいるけど、誰もが沈痛な表情をして首を振っている。普段騒がしい上の酒場ですら、何も聞こえない。


「アーシャ……」

「……だから、言ったのに……どうして……」


 運命は変えられないの?

 絶対帰ってくるって笑ってたのに、約束したのに。

 どうして……


 ふと、兄弟となった男の子を思い出した。


 ルクス=バレリアナ。

 アークさんとシャリーさんの息子。私の一つ下の従兄弟にあたる。今日からは弟だ。

 こんな時になんだけど、彼もまた攻略対象者の一人なのだ。

 幼少の頃、両親を失ったルクスは引き取られた家で愛情を貰えずに過ごす。当然ルクスもバレリアナ家の者たちに愛情を与えることもなく、彼は無口で寡黙な性格に育つ。

 愛情を貰えない原因の一つとして、彼が無属性なとこにあった。普通ならば四属性、あるいは光属性を持つはずなのに、どうしてかルクスは属性を持たなかったのだ。それが周囲からは忌み嫌われ、ルクスはますます孤独に育つ。

 けれど地球から召喚された主人公は当然だが属性なんて気にせずにルクスに接する。久々に与えられた愛情に彼もまた愛情を抱き、やがて結ばれていくのだ。

 そしてその道中には、実はルクスは母親の光属性を引いていることが分かり、それが原因でタルナダル王国の王家の血を引いていることも発覚するのだ。


 必然の出来事だった。

 ゲームが進む上で、アークさんたちの死も、ルクスがバレリアナ家へ引き取られるのも、全てが必然だった。

 そんなの許せるわけがない。


「アークさん……シャリーさん……ユアン……!!」


 泣いた。無力な自分を呪って泣いた。

 死ぬ結末は分かっていたのに、変えることも出来なかった。

 私はただただ自分の無力さを呪った。

 そんな時、私は自分の身体の異変に気付く。


 あれ……そういえば……


 心の中を巡る魔力。そこにユアンから貰ったお守りの魔力が流れているのが分かった。


「ユアン……」


 生きてる。ユアンは生きてる……!

 人が死ねば、その魔力だってなくなる。けれど今私の中にはユアンの魔力がある。

 これは紛れもなく、ユアンが生きている証だった。


「無事なの、ユアン?」


 ブルスターグ山ではユアンは発見されなかった。

 それならばどこに?


「ユアン……!」


 ユアンの心配をすると、それに応えるようにユアンの魔力が暖かくなった。

 まるで心配するなと言っているようだ。


 見つけなくちゃ……

 今の私には無理だけど、もっと、もっと強くなって

 ユアンを探しにいこう


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