プロローグ
またやってしまった見切り発車小説です。流行り?の転生乙女ゲームもので。
ストックもほとんどないので、序盤で止まったらごめんなさい。
ジェーバニア大陸にあるレヴァリア王国という小さな国があった。
小国なれど、その資源は豊かで昔から歴史ある国として注目を集めている国だ。
そのレヴァリア王国の王都の街中に、今走り遊んでいる子供たちの姿が見えた。
「待って……待ってよ、お姉ちゃん!」
先頭を走る五人の男の子と一人の女の子。そしてその後ろを一生懸命に走るもう一人の女の子だ。
「もう!アーシャは遅いのよ!早く追いつかないと私たちは先に行っちゃうからね!」
遅れている少女の声に少しだけ振り向くアーシャと呼ばれた女の子。
まだ小さな少年少女はほんの五、六歳にしか見えない。その集団ともいえる少年少女の中で二人だけの少女は同じ顔をしていた。明らかに双子の女の子たちと分かる。
「そんなぁ……。でも……そんなに走ったら危ないよ」
街中は人込みでいっぱいだった。街行く大人たちの間を子供たちはすり抜けながら走るが、所々でぶつかっては走りを止めることもあるほどだ。
何せ子供たちはこの街中に慣れていない。普段は滅多に来ることがないのだ。
その答えは子供たちの高貴な身なりによるものだろう。
「ノロマは置いてけよ!街に俺たちだけで来るなんて最初で最後かもしれないんだぞ!」
燃えるような赤髪を持った少年が遅れている少女へと言い放つ。彼は子供らのリーダー格のような存在だ。
「そうそう!いつ煩い大人たちが来るかも分かんないんだよ!せっかく大人の目を盗んで街まで来れたんだ。探検するなら今のうちさ」
青い髪を持つ男の子もそれに同調する。
彼らの言葉に遅れている少女はもはや何も言えなかった。それは反論できないというものでなく、元来の内気な性格によるものだろう。それに前を行くみんなに着いて行くだけで精一杯だったのだ。
「お、あそこの路地裏に行こうぜ!ここじゃ人がいっぱいだ!」
一番に先頭を走る赤髪の男の子は脇へと逸れる道を発見した。
人目が多いとこにいてはいつバレるかも分からない。街を知りたいという気持ちもあるし、迷いなく男の子はその脇道を進んでいった。
「……ここ大丈夫ですか?何か空気も薄暗いし……」
大通りとは打って変わって脇道へと入ると雰囲気が大分変った。その変わりように一人の男の子は不安を漏らすように呟いた。
口にはしなかったが、それは誰もが感じているものでもあった。けれど先頭を行く赤髪の男の子は引き返そうとはしない。それは彼なりのプライドによるものなのだろう。
しかしその判断は結果として間違ったものであった。
「おおっと、待ちな。ガキども!」
七人の前に明らかにゴロツキとも呼べる大人が数人立ちふさがる。その瞬間、子供たちは驚きと共にその走りを止めた。
そして気づいたときには背後にも人が迫り、囲まれていることに気が付いた。
「何だよ、アンタたち」
「そりゃこっちのセリフだ。お前ら、どう見たって貴族のナリしてるよな。何でこんな裏通りにいるのかわかりゃしねぇが……俺らに会ったのが運の尽きってとこだ」
「ギヒヒヒヒ」
幼いといえど、子供たちには目の前の大人どもが敵意あるものたちだと分かる。
自分たちはただ街中を見ようと城を抜け出して探検していたにすぎないのだ。それが今や目の前には悪しき大人が立ちふさがっている。
赤髪の少年は内心では恐怖があったものの、それを見せずに臆せずとゴロツキたちへと立ち向かおうとした。
「おい、お前たち。誰に喧嘩を売ってるのか分かってるのか」
およそ五、六歳の子供とは思えない言葉に一瞬だがゴロツキの大人たちは瞠目する。けれどもそれは一瞬で、その少年の態度に大人たちは笑うだけだった。
「ガハハハッ。誰かだって?そんなの貴族様の子供だろう?」
自分を馬鹿にされたような態度に少年の方も苛立っていた。恐怖を一切表に出さず、気丈に振る舞う。
「俺はこの国の王子エルンスト=レヴァリアだ!これ以上俺たちを阻むなら父上たちがお前たちを許さないぞ!」
その発言に子供たちを囲んでいたゴロツキたちは動揺を隠せない。まさか囲んでいる子供が自分たちの国の王子などと思うものか。しかしそれは一部のゴロツキたちだけであり、主犯格の者たちはその言葉に一層目を光らせた。
「へぇ……まさか王子だなんてな。こりゃ俺たちツいてるぜ!」
その言葉に今度は少年の方がたじろいだ。
「なっ……!」
自分の身分を明かせばゴロツキたちは逃げると思ったのだろう。何せ今まで自分へ反抗するものはいなかったのだ。そう思うのも少年にとっては無理からぬことであった。
「エル……!」
「エルンスト様……!」
自分たちに明らかな敵意を向ける大人たちに子供たちはもはや動くことすらままならなかった。
仲間から頼られる小さな王子も何も言葉を発することもできない。むしろ恐怖心でいっぱいであった。
ジリジリと近づいてくるゴロツキたち。その距離が縮まるほど子供たちの中では緊張が増していく。当然の如く泣き出す子供も出てくるほどだ。
「観念しな、王子さんよ!」
こんな悪意を持った大人がいることを少年は知らなかった。それは無理からぬことであったが、今の状況は自分が作り出したものでもあるのだ。
もはやどうすることも出来ず、ただただゴロツキたちの行動を見ていることしか出来なかった。
しかし今にもゴロツキたちが子供たちへと手を伸ばそうとした瞬間、どこからか颯爽と両者の間へと割り込む人物が現れた。
「お前たち、何をしている!!」
明らかに子供たちが襲われようとしている場面へと現れた一人の剣士。その姿に子供たちは目を奪われていた。
そしてその人物を目にした一人の少女――子供たちの中から遅れて走っていた少女はその瞬間、いろいろな衝撃と共に気を失ったのだった。