8話 TODO:奴隷(パートナー)を買ってみる
ブクマ増えてるうえに、1,000PV超えました。
皆さん、本当にありがとうございます。m(_ _)m
ちょっと長めになってしまいましたが、8話になります。
よろしくお願いします。
「――やべぇ、27歳にもなって迷子になるかぁ……。」
ショースケは、独りボソボソと愚痴りながら歩いていた。
パイクが経営する「盾の行商人」を後にして、「ナイスの宿」に戻ろうとしたのだが、色々な店が立ち並ぶ西地区は、裏通りとなると、かなり道が入り組んでいる。
しかも、ショースケはこの世界に迷い込んで、まだ2日目である。道に迷ってしまうのも仕方が無いといえるだろう。
「スマホが使えれば、マップアプリとかで何とかなるのに……やっぱ、地図とか貰っておけばよかったなぁ……。」
とにかく宿を目指して、あっち行ったり、こっち行ったりするショースケだったが、ふと呼び込みの掛け声が聞こえてくるのに気づいた。
藁をも掴む思いで、掛け声が聞こえてくる方に近づいてみたが、掛け声の内容に唖然としてしまった。
「そこのオニーサン! 冒険者みたいだけど、依頼のお供に奴隷はどうだい?
うちには戦える奴隷が沢山いるよ!」
「うちにゃあ、ご奉仕に長けた、可愛い娘が揃っているよ!!
うちの娘達を見ていってくれよ! オニーサン!」
もしかしたら、大通りにある屋台の呼び込みだと思って近づいてみたら、そこは奴隷商館のある通りだったのだ。その呼び込みの近くには、商品として扱われているのであろう奴隷の者も並べられていた。
(奴隷、ね。やっぱ異世界だから、あるとは思っていたけど……やっぱ、やるせない気持ちになるな……。
んで、ここは奴隷商館って事は、今居る場所は南地区って事か。)
ショースケは街の内容については、昨日の食事後に、宿の主人のアベルから軽く教えて貰っていた。
ここ、オーニキスの街は冒険者ギルドが街の中心となり、宿や店が多く並んでいる西地区。一般市民の住宅街が多い東地区。貴族が多く住む、高級住宅街の北地区。そして、風俗店や奴隷商館がある南地区の4区画に分かれている。
どうやらショースケは、奴隷商館のある南地区に迷い込んでしまったようだ。
「それでもまぁ、女性の奴隷を囲ってハーレムっていうのも、現代日本人から見ると、憧れるものはあるけど、どういう訳か、今まで養ってきたモラルというか、気まずさみたいなものがあって、自分がやるとなると、気後れするんだよな…………ん? あれは……。」
ショースケが目に付いたのは、1人の獣人奴隷だった。
その奴隷は、金属で出来た首輪をつけ、ボディラインが分かるくらい薄手の生地の貫頭衣を着た、兎獣人の女性である。
それだけであれば、ショースケは気にならなかっただろう。しかし、その容姿が現実世界での知り合いに似ているとなれば、話は別である。
「……どう見ても、由里にウサ耳が生えたようにしか見えん。」
ショースケの言う通り、その兎獣人の女性は、現実世界の会社の後輩でもあり、そして幼馴染でもある、飯沼 由里にそっくりだった。
どうしても気になってしまったショースケは、その女性奴隷を取り扱っていると思われる呼び込みの男に話しかけた。
「すいません。」
「はい、お客様! どのような奴隷がご入用でしょうか?」
「まぁ、どのようなっていうか……ちょっと、あの娘と話をしてもいいですか?」
「はい。構いませんよ、どうぞどうぞ。」
ショースケは店の者に断りを入れ、由里に似た女性に話しかける事にした。
「君、名前は何ていうの?」
「あ、はいぃ。私は、ユーリっていいますぅ。」
(わーい、名前まで似てるとか、どんだけよー。出来すぎだろー。)
「……あぁ、そうなんだ。君は、何で奴隷になってしまったの?」
「今年は不作で、うちの村が税金を払いきれなかったんですぅ。その代わりとして、誰かが奴隷として売られる、という事になったんですぅ。
それで、くじ引きで奴隷となるものを決める事になったんですが、私が当たりを引いてしまったので、こうして売られる事になってしまったんですぅ。」
「あぁー、成程。運が無かったわけだ。」
「はいぃ……。」
何というか、ちょっぴり不運でドジっぽい所についても、現実世界の由里に似ていると感じたショースケだった。そして、取引額を確認して、問題無ければ買い取る事を決意し、店の者に声を掛けた。
「あのー、すいません。この娘は、幾らになりますか?」
「はい、お買い上げですかっ! この娘は、借金奴隷になりますので奴隷期間は3年と短いですが、見ての通り、なかなかの美貌です。価格は、200,000オロになりますが、いかがでしょうか?」
「分かりました。それでお願いします。」
「はい、お買い上げありがとうございます! それでは、主人の元で手続きをさせていただきますので、店の中へどうぞ!」
(勢いで買ってしまった……。)
心の中で後悔とも取れるような事を思いつつ、手続きを行う為、店の中へと促されるまま、店の中へと入るショースケだった。
商館の中は結構豪華な造りであり、通された広間も赤い絨毯にシャンデリアという、いかにもといった部屋だった。
(あー、奴隷商館がこういうパターンっていうのも、よくあるわー。まぁ、あとあるとすれば、小汚い場所で牢屋がいっぱいあるとかってパターンだが……それは、ちょっと悲惨だな。そうじゃなくて良かった…かな?)
辺りをキョロキョロするショースケを迎えたのは、現代社会のスーツに近いものを着た、結構若目の青年だった。
「ようこそいらっしゃいました。そして、お買い上げありがとうございます。私が、ここ[妖艶なる妖精]の主のシュラックと申します。」
そう言ってお辞儀をし、握手を求めてきたので、ショースケも握手をしながら答える事にした。
「冒険者のショースケです。」
「ショースケ様ですね。今後ともご贔屓にいただきたく存じます。それでは、お買い上げいただきました娘の準備をさせていただきますので、少々お待ちくださいませ。
おい! この娘を送り出す準備を急ぐのだ!」
シュラックは、端の方で控えていた店員らしき人物に指示を出す。すると、送り出す準備とやらの為に、店員に連れられてユーリは広間から出て行った。
「ところで……ショースケ様は、奴隷をお買い上げになるのは、初めてと伺いますが、如何でしょうか?」
「あー、わかります?」
「えぇ、何やら、こういう場所は慣れておられないご様子でしたので、失礼かと思いましたが、お伺い致しました。
お買い上げになるのが始めてという事でしたら、よろしければ、娘の準備が整うまで、奴隷に関してご説明させていただきますが、如何でしょうか?」
「えぇ、是非お願いします。」
「それでは、ご説明させていただきます……。」
シュラックの説明によると、奴隷制度自体は国の法律で成り立っており、犯罪奴隷、借金奴隷の2種類の奴隷に分けられているという事だった。
犯罪奴隷は、殺人や窃盗など、文字通り罪を犯した者が落とされる奴隷であり、贖罪として重労働の作業を強いられる事が多く、奴隷商館で取り扱われる事は少ない。
次に、借金奴隷は、借金の形や、ユーリのように税金の形として売られ、主に奴隷商館で取り扱われる事が多い。
借金奴隷の場合は、額によって奴隷期間の期限が決められている。期間後は、必ず解放する事となり、一般市民の権限が与えられる。
そして、奴隷という身分であっても、ある程度生活は保障されており、奴隷だからといって何をしてもいいというわけではない。すなわち、過度の暴力行為などを行った場合には、捕縛され罰を受ける対象となってしまう。
最後に、奴隷の主人は、奴隷への最低限の衣食住を保証する義務があり、これも怠った場合にも罰を受ける事になってしまうという事だった。
(成程、随分しっかりした法律だ……それでか。奴隷として売られているっていうのに、皆、目が死んでいないというか、なるべく良さそうな主人に買ってもらえるように、アピールが激しかったもんな。
それにしても、さっきから、あそこに並ばされているお姉さん達の眼差しが熱すぎて怖いよ……。)
奴隷についての説明を一通り受け、ユーリが来るのを待っていたのだが、他の売り出されている、セクシーな女性奴隷達の「私の方が良いわよ」と言っているような、熱い視線にたじろぐショースケだった。
しばらくすると、ユーリが店員に手を引かれてやって来た。
ユーリは、小奇麗に整えられており、その姿も、先程の薄手の貫頭衣の姿では無く、結構厚手の生地で作られたワンピースを着ていた。足元を見てみると、先程は裸足だったが、今はサンダルを履いていた。
「お待たせ致しました、ショースケ様。」
「へぇー、本当にしっかりしてるんですね。さっき見た姿とは全然違う。」
「左様でございます。買い手が見つかった奴隷は、皆、この姿で送り出すようにしております。しかし、主人によっては、本当に最低限の物しか与えないという方もおりますが……。」
「そうなんですか……。」
どうやら、国から保障はされているが、主人によっては、本当に最低限の衣食住で扱き使う者もいるという事なのだろう。
他の主人はどうであれ、自分は仲良くやっていければ良いと思うショースケだった。
「それでは、契約の方を進めさせていただきます。ショースケ様、大変申し訳ないのですが、血を一滴いただけますでしょうか。
こちらに呪印が描かれた紙がございます。この娘の手の甲に置いた紙の呪印の部分に、ショースケ様の血を頂きたいのです。」
「へぇ……それで、契約が成立するわけですね?」
「はい、左様でございます。こちらの呪印が、この娘の手の甲に移り、それが契約奴隷の印となります。」
「それじゃ……。」
ショースケは、渡された針を使って指先に傷を付け、呪印に血を垂らす。
すると、紙に描かれた呪印が光りだした。光が収まると、紙に描かれていた呪印は消えていた。どうやら、これで呪印はユーリの手の甲に写ったようだ。
「それでは、契約はこれで完了となります。ショースケ様、この度は誠にありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
そう言って、華麗にお辞儀をするシュラック達に見送られ、ショースケはユーリを連れて商館を出た。
その後、道行く人にも[ナイスの宿]のへの道順を尋ねたりしつつ、若干迷いはしたが、何とか宿に戻る事が出来た。
「はぁー、やっと戻ってきた。」
「おぅ、おかえり、ショースケさん! ……ん? その娘は……あぁ、連れに奴隷を買ったんだね。」
「あぁ、そうなんですよ。カチュアさん、2人部屋に変えてもらう事って出来ますか?」
「ほぅ?」
「えぇっ!?」
カチュアは驚きというか関心するような声を、そしてユーリは驚きの声を同時に上げた。そんな2人に対して、不思議に思うショースケだった。
「あれ? 俺、何か変な事言いました?」
「ご主人様、だって奴隷ですよ!? 私は、床に寝るものだと思ってましたぁ!」
「いやいやいやいや、そんな事させないよ。ユーリにも俺と同じように、ベッドで寝たり、一緒に食事してもらうつもりだぞ?
……というわけで、カチュアさん。夕食も2人分お願いします。」
「あいよ! いやー、素晴らしいね、ショースケさん! あんた、見所があるとは思っていたけど、ここまで器が広いとは思ってもいなかったね。
他の奴等の奴隷の扱いっていうのは、結構酷いもんだよ。いくら法律があるといっても、このお嬢ちゃんの言う通り、宿では床で寝かせたり、食事だって残り物とかを与える程度のもんさ。
私としては、そういうのを見ると反吐が出るから、色々と言いたい事もあるんだけどねぇ……。」
「カーちゃん。そういう客が来ると、すぐ追い出すじゃないか。」
「五月蝿いんだよ! あんたは黙って、2人分の食事の用意すりゃいいんだよ!」
アベルもカチュアも奴隷に対しては思う所があるようで、ショースケと同じように、奴隷であろうが差別する事なく対応してくれるようだ。
そんな2人の夫婦漫才を見ながら、安心するショースケだった。
「そういう事で、ユーリ。まぁ、堅っ苦しく[ご主人様]とかで呼ばなくていいぞ。ショースケとでも呼んでくれれば……。」
「いいえ! そういう訳にはいきません! それでも、優しい方で良かったですぅ。これからよろしくお願い致しますね、ご主人様ぁ!」
「――(結局、[ご主人様]か。)まぁ、しょうがないか。これからよろしくな、ユーリ。」
ユーリを仲間に加えたショースケは、彼女の事を考え、とりあえずは街中の引っ越しや荷物運びの手伝い、それに、手頃だと思われる近場の採取依頼を一緒にこなす事から始める事にした。
そんな生活にも、多少慣れてきたショースケ達だった。冒険者としての仕事も、次の依頼でランクが一段階上がる所まできていた、異世界に迷い込んで4日目の朝。
その時は、突然やってきた。